41話【躍る刃の影】
剣戟の音、風を切る高音、弾けるような踏み込みの音。
激しくはあるが規則正しい呼吸音、紡ぎ出す言葉は本能の咆哮。
細剣を構えた二つの影は、踊るように――否。
烈しくも美しい、剣舞を演じていた。
二人の人物に目を向ける。
こちらから見て右方には、金糸の髪を靡かす細剣使い。
――要は、[我が麗しきお嬢様]だ。
いつもよりも軽装の出で立ちで、革靴と硬化革鎧を身に着けている。
軽装であるからか、動作がいつもに増して機敏だ。
普段からあれだけ重い板金鎧を纏っているだけの事はある。
対して左方は――
――見知らぬ、男性。
武器は、両刃の――刺突細剣よりも幅広で、両手大剣ほどは大げさではない。
――となれば、おそらくは[幅広剣]の類いか。
さほど重くもなく長過ぎもせず、斬り合うのには丁度よい中々の武器だ。
柄頭には碧色の球形宝石があしらわれている。
飾り気のないヘルのエストックとは大違いだ。これはこれで美しいものだが。
動きは緩やかだが、隙がなく細剣の刺突を器用にいなしている。
――恐らくは、それなりの手練。
少なくとも、戦いなれていることだけは確実だろう。
ふと、その男の首上に目が向かう。
ヘルによく似た金色の髪。
――いや、少しばかり暗色だろうか。
瞳の色も、よく見れば同じ色だ。
顔つきもよく似ている――と、なると。
――おそらくは、血縁者。
血の"きょうだい"。
たしかヘルは、「自分は末子だ」と言っていた。
であれば、男性はヘルの実兄――ということになるだろう。
……となると、彼はボクの義兄でもあるわけか。
なにかこう、少しばかり不思議な感覚だ。
……慣れるものなのだろうか。
彼は、果たして。
どんな人物なのだろうか――?
……そういえば、ボクが起動してから、いわゆる人間的人間……その男性を見るのは初めてではないだろうか。
……だからといって、特に珍しいものではないのだろう。
たまたま今までの環境に、人間男性が居なかっただけという事だ。
……"もしも"[人間男性が少数、ないしは減少傾向にある]としたら――どうなる?
[既終末世界]や[未成人禁書]なら有りがちな話だが、そういうものには当て嵌まるまい。
第一、今のボクは機械人間だ。
性別比率など……気にして何になるというのだろう――
――っと。
杞憂を暴論で掃討している合間に、眼前の試合に変化があった。
「――そこだッッ!!!」
「ッ!!」
猛烈な鎧通しの一撃が、男の構えた剣を打つ。
男の手から離れた剣は、ひどく回転しながらあらぬ方向へと飛び去っていく――
――勝負あり、だ。
ヘルは剣を男に向け、試合終了を告げようと口を開き――
――!
あれは!?
回転し飛び去ったはずの男の剣は、ゆらりと空中で静止すると、
ヘルの方を目掛けて真っ直ぐに飛び込んでくるではないか!!
『!! いけない――』
【造兵廠】神速起動――全兵装展開――!!!
腕を【腕に抱く造兵工廠】を、伸ばし――
『――間に合えッッ!!』
[飛翔する雑種剣]を――
――捕らえた。




