40話【ちいさなこと】
廊下、おそらくそう表現するのが正しいであろう、長い通路に立っている。
天井はやけに高く、壁は随分と先まで続いている。
……いや、というよりは。
ボクの機体が、小さいから……か。
恐らく、身長としては、成人女性の半分よりやや高い程度のものだろう。
……言うならば、少女の身長だ。
敢えて背の高さなど気にしたことはなかったが、この外見では少し、その、引っかかるものがある。
もしかしたら、もしかしたならば。
ヘルやフルカたちは、ボクの事を手のかかる少女のように見ているのではないだろうか……?
この機体が機体である限り、背が伸びたり体型が変わったり、成長することなどあり得ない。それは救いなのか、そうではないのか……。
畜生、何もかも、全部女神のせいだ。
もはや食前の所作のように馴染みのものとなった、女神への罵りを吐き出す。
出してみると、気が楽なものだ。少しばかり落ち着くことができた。
……さて、何処へ行ってみようか。通路は右と左に別れている。
窓の外には、一つはもう沈んでしまったのだろうか、三つの月が見えている。
……思えば、これは初めての一人歩きだ。
正直に言えば、すこし心が踊っている。
知らないことを知るのは楽しいし、見知らぬ場所を巡るのはとても興味深いものだ。
ましてや、ここはボクにとっての異世界だ。興味の種が尽きることはない。
ヘルやフルカが何処に居るのか、それも気には掛かるが。
さしあたりはまず、右の方へと行ってみよう。
――コツ、コツ、コツと足音が反響する。
この靴は、艦を降りる前に、ヘルが履かせてくれたものだ。
良い音の鳴る靴はいい靴だ、などという言葉を聞いた事があるが。
それならこれはそれなりの品ということなのだろう。
『……♪』
少し、音を鳴らすのが楽しくなってきた。
ああいけない、思考まで少女のようにする必要はないのだ――
暫く進むと窓が途切れ、外へ出る扉を見つけた。
窓から外を覗き込むと、そこはどうやら中庭らしい。
あまり飾り気はなく、足場の土が踏み固められているところを見ると。
おそらく、訓練場かなにかとして使われているのではないかと推測される。
『……?』
音響感知器が金属音を捉える。
金属と金属とが触れ合う――そんな音だ。
なにかあったのだろうか?
いや、訓練場であれば、訓練をしている者たちがいるのだろう。
もしかしたら、ヘルかフルカかも知れない。
あるいは、そうではない別の人物であるかも知れない。
それはそれで、気になる事象だ。
ああ、動作確認のも、良いかも知れない。
それに、此処にどんな人物が居るのかも、気になる。確認しておきたい。
そんなふうに決めたボクは。
何気ない仕草で、扉を外へと押し込んだのだった――




