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37話【「神は地獄にいる」】

現れたのは――ひとりの女。

蒼銀色(アズルシルバー)の長い髪を、腰のあたりまで伸ばし。

薄灰色(アッシュグレイ)の瞳をこちらに向けた。


そいつは碧玉(エメラルド)色の奇妙な柔衣(ローブ)のようなものを身に纏い、

足には文様入りの足飾り(アンクレット)とおかしな音のなる履物(サンダル)を履いていた。


女性と呼ぶべきか、少女と呼ぶべきか。

どこか――曖昧だ、そう感じさせられる。


――綺麗な女性、あるいは少女。

それが単純な印象だった――



――だが。


「いやァ~、大丈夫? 元気?

 ほらほらヘレのんってば、結構へーきで

 無茶しちゃう人間(ニンゲン)だもんねェ……無事で何よりだよォ☆」


「……ああ、久しぶりだな、サイクリス(・・・・・)


ヘルはどことなく複雑な表情だ。

どこか厄介な相手なのだろうか?


……というより、発音が奇妙(・・)だ。

変なところにアクセントが来る。

ヘルやフルカとは、違う文化圏のヒトなのだろうか……?


名前(ファーストネーム)で読んでくれてもいいんデスよ~!

 いつになったら家名(ファミリーネーム)呼びをやめてくれるんデしょうか……ぐすん」


……なにかこう、どこか痛々しいところのある御仁(ひと)だ。

思わず、聞かずには居られなくなってしまう。


『あの……ヘル。

 この方は、いったい……?』


「む。ああ、メガリス、こいつは――」


ヘルがこの女性について説明しようとした時。


女性は、{信じられないようなものを見た}といった表情を見せた後、

とろんとした笑顔に変わり、ボクの方へとすーっと手を伸ばした。


「!! ――なに、この娘! カワイイ!! どこの娘? よその娘?

 まさかどこかで拐かして(ユーカイして)きた娘なの!?」


両手を広げて熊式鯖折り(ベアハッグ)めいた抱きつきを試みたのだろうか。

……嫌な予感がした。ボクは体を揺らりと動かし、くるりと後ろへ身をかわす。


(ボク)はメガリス、発掘された兵器です。

 ヘレノアール嬢を己が主とするものです』


「ガーン! お手付き!? ……折角の素敵な女の子がァ……。

 ……うん? いま、発掘兵器って言った?」


発掘兵器……その言い方は初めて聞いたが、それは妥当な表現だろう。


『はい、(ボク)兵器(たたかうためのどうぐ)で、遺跡に残されたボクを、ヘル(ヘレノアール)が見つけてくれたのです』


「まさカ……こんなかわいい女の子が……いや例がないわけでも……ヒトガタ……ゴーレム、ホムンクルス、オートマタ……でもこんな精巧なのは……おかしなニンゲン? 騙る妖魔? いやでもそんな感じでは……まてよ、それより――」


女性はとたんに顔を伏せ、なにやらブツブツと独り言を言いながら考え事をし始めてしまった。

ヘルの方に目をやり、女性の方を指差しすと、ヘルはため息を付きながら口を開いた。


「こいつはストラ・サイクリス。機人専門の技師(いしゃ)だ。

 見ての通り、変なやつだろう? そして、重度の変態(ヘンタイ)でもある」


『[特殊な趣味の技師ヘンタイポルノ・ドクター]……何かこう、胴体後背部(せなか)の辺りが幻想冷感(さむくかんじる)のですが……』


「……悪いやつではない。それは私が保証する。

 だが、個人的嗜好については、何も言えないな……」


『……願わくば、気のせいでありますよう』


だが、その願いは露と消えることとなる。


「――あ、そういえばヘレのん、機能不調(びょうき)した機人()、ってのはどれ(だれ)のことデス?」


ヘルは頭を抱え、ため息を付きながらも、絞り出すようなか細い言葉を紡ぐ。


「メガリス、お前を診てもらう技師(いしゃ)とは……サイクリス(こいつ)の事だ……」


『――[女神は地(goddess)獄に(demn)落ち(it)よ]』


「メ、メガリス?」


『……いえ、なんでもありません。すこし、取り乱しました』


ええい、まだ、危険人物(アブないひと)と決まったわけではない……気にする必要など無い……。


「素晴らしィデース! こんな素敵な修理(ちりょうこうい)なんて滅多にありまセンっ!

 あんなことー♪ こんなことー♪ 色々とォ、試たいことは無限大っ☆

 さぁ、研究室(ちりょうしつ)へ行っきますヨー!!」


『――[堕ちてしまえ(demnit)]』


「メ、メガリスー!! 待て、サイクリス!

 メガリスに何かあったらお前を串刺し(・・・)に――」


――その辺りで声は聞こえなくなった。


……畜生め。

もう、なにもかも、女神(アイツ)のせいにしてやる――

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