32話【疾走れ、黒色立方少女体】
『――ヘル!? その姿は――?』
[∴説明は後だ! こっちへ、メガリス!!]
黒色立方体に促されるままに、オーチヌスへと乗り込む。
辺りには金色の粒子が散らばり、まるで光の洪水のようだ。
[∴よしッ!! 頼むオーチヌス、[ハッチの開放]!]
任せろとでも言うように、艦は幾何学模様の円陣を開放する。
「∴早くしないと展開した内包世界が【奈落】に喰われてしまう!
∴中へ――早く、メガリス!!]
『は、はい――!』
――!?
また脚部が機能停止なる。
女神め! どうしてこんな時に……!!
[∴どうした、虚空酔いか? ……メガリス、私に乗れ!]
『え、あ――』
[∴時間がない、行くぞ!!]
黒箱は作業用アームをニュルリと取り出すと、ボクを抱え込んでその頂面に乗せてしまう。
『ヘ、ヘル!? 大丈夫なのですか!?』
[∴この身体は意外と丈夫だ! とにかく行くぞ!!]
ヘルに上部搭載されながら、円陣の上へと急ぐ。
内包世界……そして、【奈落】とは――?
疑問を差し込む余地もなく、切迫な状況はみるみるうちに推移していく。
円陣より艦内指揮室へと至る。
そこには、心底心配そうな表情のフルカが祈るように手を重ね合わせていた。
「お嬢様! メガリスさん!!大丈夫なのですか!!?」
[∴メガリスが機能不良を起こしている、早く医務室へ!!]
「それは大変ですよ! 使えそうな部品を探してきます!」
[∴ああ、頼むぞフルカ! ――さあ、急ぐぞ!]
ちょこまかと虫のような多脚を展開させながら、走る黒箱の姿はどこか可愛らしい。
そんな事を考えている場合ではないのだろうが、単純に、ボクは可愛いものは嫌いではないのだ。
[∴オーチヌス! メガリスを修理する! 虚空領域脱出の指揮は任せたぞ!]
[*御意に。どうか【大機械灯台】の加護を]
ボクは硬質テーブルの上に乗せられ、半身動作不良のまま横たわっている。
[∴必ず直す! だから、安心して[スリープモード起動]――]
いつの間にか腕の操作権限までも失っていたボクは、
黒色立方体の言葉をただ受け入れるがままに、
[実行:スリープモード]へと堕ちていったのだ――




