31話【機械仕掛けと女神】
『――!!?』
機体反応の部分消失。
脚部が[動作不能]。
『……動け――動け!』
[反応なし]
電子頭脳から必死に電気信号を送るも、脚部は何の動作も見せようとしない。
――何故だ?
先の戦闘による負傷か?
――否、考えづらい。
少なくとも、戦闘中に観測できた範囲で受けた被害は一つたりともなかった筈だ。
そう、あった。間違いなく、今の今までは。
ならば何故、今。[接続不能]いる?
"虚空"、それそのものに、生物を溶かし喰らう作用があるとでも?
馬鹿な、それではまるで――
『――!?』
左腕の感覚が[反応消失]。
まるで、最初から何もなかったかのように。
――否。
消失したのだ。いま、そこにあったものが。
そう、例えるならば――
――喰われた、そう言い表すのが適切だろう。
……喰われた?
喰われた――そうであるとするならば。
なにに、喰われたと言うのだ――?
『――だれだ、おまえは』
果無き虚無へと問いかける。
無論、返事などある筈もない――その筈だった。
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何者かの声。
否、其れが音であったのかさえも定かではなく。
咄嗟に、両腕の造兵廠より、液体金属を滲ませ、虚空を睨みつける。
――両腕。
そう、両腕の、だ。
反応が消えた筈の左手から、出力される鉄血。
そして、それに覆われた部分が、[反応復帰]いる。
まるで、最初から何事もなかったかのように。
脚部に鉄血を這わせると、そちらも同様に復帰する。
電気信号を送れば、脚部は素直に動作する。
――何事もなかった、だと?
そんな筈はない、そんな筈があるものか。
ボクの片腕と両足は、たった今、喰われていたのだ。
そしてそれはこの虚空にでは、ない。
さっきの声は外からではない、内側からのものだ。
それはつまり、[何者かによる操作権限の奪取]に他ならない。
外部よりの侵食とは考えづらい。
第一、そんな機会も、敵も、心当たりはない。
ならば。
そんなことが出来るのは、女神しかいないじゃないか。
女神に仕込まれた強制介入権限……そう考えるのが自然だろうか。
だが、何故、今、こんなことを? 移動手段を奪って、何の意味が――?
――その時だった。
声が、聞こえた。
内側ではなく、外側からの。
黄金色の粒子が辺りを包む。
虚空に、実体が現れる。
――□□□ ̄□ ̄Ζ_/▽\__□...!!
それは、もはや見慣れた鉄の鯨と。
[∴メガリス!! 無事か!!!]
聞き慣れた声で話す、黒く四角い立方体だった――




