297話【もう一つの戴冠者】
「なあ、相棒!」
「メガリス、さん――」
『――どうしました、セタ、ルゥ?』
艦内に残した機体に、真剣そうな顔をした二人が話しかける。
要件は――理解している。
『――いいのですか?』
言外に、{王に記憶を奪われる危険性}を匂わせる。
「メガリス、あんたと――あの娘が戦ってるんだ!
アタシらだって、[対王戦闘可能]さ!」
「そう、だよ! メガリスさん――
わたしたち、にも――てつだわせて!」
『二人とも――』
――懸念は、無いわけではない。
いま[大地と空]が、【王】の侵攻に抵抗しうるのは――
――それだけ[強大な神格]を取り込んだ、その結果であるという、仮定。
――[存在]としての強度。
それが不足していれば、いかに眷属神と言えど――
――消滅、十分に考えられる可能性だ。
海と境界を艦外に――【概念】の戦場に、出すべきなのだろうか――
「メガリス、さん」
『――ルゥ』
「これは、きょうかいを、きめる、たたかい。そうでしょう?」
『――!
ルゥ、それは――』
ルゥのことを、【境界の神】だと評した事がある。
彼我の境界、領域と領域を定義づける存在だと。
――だが、それは。
「わたしは、[境界]
わたしが、そうきめたから」
彼女自身が、境界を敷く――即ち。
「だから――メガリスさん。
わたしが、[この世界]と、[そうでない世界]を、さだめてみせる」
[王の侵攻]に、直接立ち向かうということ。
『ルゥ――』
――正直に言えば、考えなかったわけではない。
王が世界という境界を侵す存在である以上。
【境界の眷属神】の存在は――
――有効打。
或いは――[切り札]となりうる可能性がある。
……仲間を失う危険を、天秤にかけるべきか?
もう少し――思考を続ける必要がある。
――おそらく、セタの方は問題ない。
仮に海を艦外に出すとなれば――
奈落は、空と大地と――海が満ちることとなる。
地空海は、天地よりも遥かに強固な【世界】として成立するだろう。
海は照らされ風を呼び、波となり大地を変容させていく。
海風はやがて天へと至り、雨となり大地を潤す。
循環は世界に【時】を与え、要素は世界に理を与えるだろう。
それによって現出する、[ボクらの仮初の天地]は。
【王】に抗うに足りる、[強固な世界]へと変容するだろう。
海は――出撃させるべきだ。
だが、境界は――そうだ。
境界とは、得てして[変化するもの]だ
……悪い想像を働かせることもできる。
境界を失った瞬間――成立していた拮抗が崩れ。
何もかも王に呑まれる――そんな可能性も見える。
――ならば、どうする?
単純な話だ――
強化すればいい、存在というもの、それ自体を。
用いるべき手段は――未だ、残っているのだから。
『――メシュトロイ』
『▼ ……は? 』
ここに至るまで、ずっと――素知らぬ顔を続けていた、巫女に声をかける。
『幻獣を貸してください。
――ひとつ、いい考えが浮かびました』
『▼ なんなんだよ、いきなり何を言って―― 』
『いいですね?』
少し大地に似た顔で――にこりと、微笑んでみせる。
『▼ ――っ!
……畜生! 』
嗚呼、準備は整った――
さぁ、【王】に、目にもの見せてやろうじゃないか!
――【幻想】の【境界】というものを――!
化身は――睥睨する。
輝きに彩られた天地に、現れた大海、そして――
――幻獣の姿、無限に等しい長さの境界線を。
化身の世界を包む蛇を、何よりも強固な境界線を。
世界蛇にも冥府蛇にも等しき、我が【世界を戴く巨獣】たる境界が、此処に顕現した――




