28話【千年功】
――暗転。
そして、明転。
されど、眼に移るものは――
none
void
0
光はなく、闇もなく――
熱量変化も[反応なし]。
大気流の音さえ[反応なし]。
ただ静かに、己の鉄血が[動作正常]。
そして大地への縛鎖さえもが[観測不能]。
それは上天に[部分的な相似]
上天光媒が仮想存在する筈もなく。
暗黒物質さえ存在しない。
虚空。
それは、どこまでも[0]。
それは虚空よりも[0]に近く。
限りなく、どこまでも。
――虚無。
なにもない。
なにも、ないのだ。
……だが。
ボクは、[敵対者は健在]の、[void]を睨みつける。
捻くれた触腕の主はこの何もない世界に在りながら、
其処に確かに、存在しているのだ。
ボクは拘束を振り払う。
何も感じられないが、とにかく機体は自由を取り戻すこととなる。
『――ああ』
滑稽だ。
『ボクが、どれだけ――』
[無間にして夢幻の0]にいたと思う?
『お前が、どれだけ』
虚無の世界に居るかは知らないが――
『――[推定]』
――そう。同じだ。何もかもが。
『ボクの方が、[5000年の先駆者]だ――』
眼前の全てが青ざめる。
そしてまた、奴が現れる。
『[形状確認]ぞ、クラーケン』
虚無の虚空に自己を代入し、現われたるは[1なる虚実]。
聳え立つ捻れた尖塔、顎には旋曲する牙の兵列
無数に這い出る爛れた触手、開く投影は五芒星に似て。
そして、体の中心部分にある、恐ろしく澄んだ水晶体――
あまりにも巨大な目が、ボクを凝視していた。
『【造兵廠】、再展開』
ボクは【造兵廠】の鉄血を組み換え、奴を{一瞥する]。
そして――ただ、言い放つことにした。
『――[戦闘開始]、[小さき世界の奇想者よ]!』




