276話【鋼鉄】
[> ――ふっ! <]
右拳、右肘、勢いを回転に変え――強烈な回し蹴り。
息を付かせぬ――連打。
あれ程の巨体が、こうも機敏に動くものか。
『く……ッ!』
深く地面を踏みしめ、受け止める――だが、何たる威力か!
緩衝用鉄血を揺さぶられ、外骨格が軋み唸る!
[> すぅ―― <]
不意に姿勢を下げ、屈み込み――否! それは跳躍の構え!
――飛び蹴りの類いか! 受けきれるか――?
――いいや、これぞ反撃の好機!
瞬発的な加速と共に、刺すような膝蹴りが迫る!
ボクは腕の防御を空け――
[> ――っ!? <]
胴体に突き刺さる膝! だが貫かれはしない!
然り、白刃取り! 両の腕に挟み込まれた竜人の脚部!
――逃すものか!
『【噴進・最大出力】ッ!』
頭部側方と右脚部側方! 胴体を軸に右回転!
当然、膝を捕らえ固着したまま――
[> ――ああっ! <]
脚部を軸として同時回転! 勢いをそのままに地面へと叩きつける!
投地! 直ぐ様地に手を着き姿勢を戻そうとするも――こちらの方が早い!
『――はぁっ!』
跳躍! そして急速落下!
機体全身の重量を、反らせた胴体から思い切り叩きつける!
[> ッ!! ぁぁッ! <]
鋼鉄と鋼鉄の、ぶつかり合う音が響く!
ひび割れ沈み凹みゆく地面! 大打撃痕は衝撃を逃し得たか?
ならばこれ以上の質量攻撃は無用!
踏みつけを断念し後方跳躍! 距離を取る!
ほぼ同時に相手も跳躍!
大穴から抜け出てボクを見る!
[> あははははははッ!! 楽しいのです!!
同族と戦うの、夢だったのです!
[本物の竜人機に非ず]でも叶っちゃったのです! <]
楽しそうに大笑いする竜人機!
表も裏も何もなく、熱狂的な{歓喜}に満ちている!
『――それは光栄です。
ですがまだ、こんなものではないのでしょう?』
軽い挑発に対して、彼女は真っ直ぐな{戦意}で応える!
[> もっちろんなのです!
本気の本気、見せてやるのですッ!
――[限定]、[全解除]!
【赤機竜:[1010]の王】――[起動]! <]
――変形が、始まる。
竜尾が伸び巨翼が展開され――かしゃりかしゃりと、赤色巨竜が現れる――!
[> ――さあっ!
そっちも変形するのです!
……出来ますよね? 出来ます……よね!? <]
『……!』
出来るものか――などと、言うつもりもないが。
竜型機体への鉄血再構成など、やったことはない。
だが、可能だろう。
目視複製、高速設計、随時修正。
しかし、そうだ――
――竜、竜人機、竜型機体――
……ああ。
そういえば一つ――あるじゃないか、模倣元が――
……正直、どうなのだろうか。
〓〓を模倣して、果たして無事に済むだろうか?
――例えそうだとしても、今は好奇心が勝つ。
――それに。
眼前の相手を目視複写しても、面白くもなんともない。
同型機なら、練度の高いほうが勝つに決まっているからだ。
――それならば、いっそ。
彼女に、同系列機体との対決という夢を見せてやってもいいだろう。
……やれやれ、全く――どうなることやら。
『――良いでしょう』
[> !!! <]
『ならば、見せて差し上げます。
当機謹製の――竜人機を!』
――鉄血増量!
……。
すべて再現する必要はない。
そう、〓〓なら――
一つの首だけで、十分だ。
『――完成』
無限大に再生を繰り返す新たな機体が――ちりちりと、電子頭脳を揺らす。
――やれやれ、だ。
『【仮想竜人機】――改め!
名付けて、【無双首龍・月虹】!!』
星めいて煌めく、銀龍の姿を見て。
赤色巨竜は、とても楽しそうに笑った――




