275話【あの空に焦がれて】
[> ――と、いうわけでですね。
連中は光――なかでも、強力な光に弱いらしいのです。 <]
――確かに、姿は消えた。
王が存在した筈の場所に触れても――何も、起こらない。
去ったか、逃れたか、消滅したか――
――[位相のずれが生じている]、か。
少なくとも――直接的な被害が生じる状態にはない。
そう、考えても良いのだろうか。
『ありがとうございます、イル。
――有益な情報でした』
[> ま、なんで効くのかもわかってないんですけどねー。 <]
大型機人は目を細めて笑い、手のひらを上向きに首を傾げる。
『学者たちは、何と?』
[> えーっと、確か――
{王が発生する為の何かに、衝撃が入るのではないか}
――って言っていました。 <]
――発生源。
やはり、うねうねそのものが王の本質だとは考えていないらしい。
『発生源に――何か、目星はついているのでしょうか?』
[> そうですねぇ、最近だと有力な説は――
{王は残骸に生じた電子的領域接続の産物}で、
残骸で[機能残存]受容機構なり発電機器なり――
とにかく、{そういったものが王を発生させているんじゃないか?}
って言われているみたいなのですよ。 <]
――ふむ。
確かに、あれらの瓦礫の山が――すべて、何もかも、完全に壊れ去っている――とは、考えづらいか。
ならば残存機能が自然に電脳網化し、この奈落の王を引き起こしている――ありえない話でもないが。
――そうだ。
少しばかり――作為を感じる。
もし王が自ら生じたとするのなら――核となる人格が存在する筈だ。
――意思のある何かが。
――或いは。
外的要因によって生み出されたとするならば。
――作成者が存在する。
そう考えざるを得ない。
虚空か、空か――
――未知なるものか。
――とはいえ。
これ以上は、情報不足か。
実際の奈落に至ってから――続きを、考えればいい。
それでいい、筈だ。
[> ――さて!
王についてはこんなもんです! <]
『助かりました、イル。
情報は、幾らあっても困りませんので』
[> お役に立てたようで何よりなのです!
そういえばメガリスちゃん、この後の予定はありますか? <]
――予定。
少なくとも現時点では、優先すべき行動は無いが――
『――いいえ、特には――』
[> あ、それなら――
もし大丈夫なら、訓練手伝ってほしいのです! <]
『――!』
訓練――
――それは、悪くない。
近頃少し――機体が鈍っていたところだ。
実戦でない模擬戦闘を楽しむのなら――それは、とても有意義だろう。
『――ええ、もちろん。
ぜひ一度、手合わせしたいと思っていました』
[> 本当? うれしいのです!
あ、できれば前の、[大型機人]で―― <]
――ああ。
初対面時、彼女が竜人機だと勘違いした機体か。
[同型機に非ず]と分かっていても、単純に――興味深い、のだろうな。
海が居ない以上、完全に同一の機体にはならないが――
――外観を、同一にするぐらいは可能だろう。
『構いませんよ。
――始めましょうか?』
[> ふっふっふ~、負けませんよ?
あ、折角なので空間構成も変えちゃうのですっ! <]
――空間が、変容する。
応じるように――ボクは、鉄血を纏う――
『 【 拡張装甲外骨格・二式甲 】――! 』
[> ――【壺中天変・再構築】! <]
奈落は薄れ消え去りて、現れたのは――突き抜けるような青空。
雲海見下ろす円形闘技場に、二機の大型機体が対峙した――




