26話【伝声】
「――上っ! です!!!」
耳元に、直接届く声。
「避けて! メガリスさん!!」
これは、フルカの声だ。
今、この場に居ない、フルカの声だ。
であれば、どのような手段で音声伝達を行っているのだろうか。
あるいは、これが彼が口走っていた【"鳴"の術式】とやらか。
となれば、それは[音を用いた魔法の類い]ということなのだろうか?
後に聞いてみることにしよう――さて。
再度、状況判断といこう。
頭上、ほんの僅かな距離に、虚空穴が生じていた。
――即座に溢れ出る、触手の束。
全身に絡みつく、細い触手の束
強靭であるはずの全身装甲に、幾許かの軋みが生じる。
靭やかに強かに全身を縛りあげる触手。
これは、果たして容易に逃れうるだろうか?
是だ。
ただ逃れるだけなら、如何用にも選択肢はある。
高熱剣を【造兵廠】の鉄血に戻し、炸薬か電磁放射装置にでも切り替えてしまえばいい。
少なくとも、熱による攻撃は有効なのだから。
それに、力業でも脱出は可能だろう。
この細かい触手であれば、個々の力はそう強くない。
素手で引きちぎることさえ可能だろう。
――だが、それでは状況は変わらない。
また新たに●が空き、次の触手がせり出してくることだろう。
それを切り続けたところで、相手がどれほど消耗しているかなど知れたものでない。
では、どうするか。
――そんなものは、決まっている。
"敵本体の撃破"だ。
このまま触手で、●の先にいる頭部までご案内して頂くとしよう。
懸念点は、"虚空"空間内での活動が可能であるか、否か。
だが、そんなものは些細な事だ。
[void]になど、5000年も居られたのだから。
触手がにちゅり、にちゅりと、ボクの身体を●の中へと引きずり込む。
ボクは力を抜き、虚空での戦闘行動に備える。
……ああ、そうだ。
ヘルとフルカに、余計な心配をかける必要もない、か。
ボクは艦の聴音端末で聞いているであろう二人に向かって、声を上げた。
『――現時点で、確約します。撃破と、帰還を――!』
にゅるり、にゅるり、にゅうるりぃと、触手は蠢き、虚に誘う。
そして、ボクの身体は。
ぽっかりと空いた、●の中に、飲み込まれていった――




