268話【とりとめも、たあいもなく】
「あれメガリスちゃん素体変わった?なんだか前よりキレーになってない?」
……。
「私以外の誰かに整備させたの――? ひどいよメガリスちゃん浮気なんてっ!」
…………。
「それとこっちのメガリスちゃん似の美少女はだれ?紹介してヨーなんて子?」
………………。
――喧しい。
[時期:子爵領動乱]は[常時真面目な言動]だったから忘れていたが――
――[特殊な趣味の技師]は、[ある種危険な変態]だった。
『……ええと』
「ねーねー教えてヨー!
そっちノ――お嬢ちゃんからでもいいよー☆」
『ボクはメガリスです。
化身も、メガリスに違いありません』
「そっかぁ端末みたいなモノかー。
でもまるっきり[旧人類種]だよ?
ひょっとしてメガリスちゃん元[旧人類種]だった?
[魂ないしは精神体]を機体に焼き付けたタイプの搭乗者型機人?
それはそれで――すごく、ソソるなぁ――っ☆」
……どうしたものか。
ここまで、これほどに、あまりにもうっとおしいと――
――[生身の化身では抑えが効かない]かもしれない。
貴重な知的戦力を、[粉砕破壊]にするのは――まあ、厭だ。
――ああ。
要は、[比較的真面目な状態]を誘発させることができれば――
[比較的真面目な話]になる、か。
ならば、とりあえず――
――話題を、変えてみるか。
『――そういえば、なのですが』
「え、なになに?
カワイイ機械の話?」
『……いいえ。
ただ、ふと気になったことがありまして』
「ふーん――なんだろ、話してご覧?」
――食いついた、と言っても、良いのだろうか――?
『以前、[虚空に適応できず消滅する]ことを[奈落に飲まれる]と表現していましたが。
――[領域としての奈落]とは、なにか関係があるのですか?』
「――あるといえば、あるね。
ないっちゃあないんだけども」
『――比喩、ですか?』
「ン――まあ、そんなところ。
そうだなぁ、この浮遊島やよその浮遊島で――葬儀って、見たことある?」
『――[該当情報なし]』
「じゃあ、かいつまんで話すと――」
――死者を送る、儀式。
それは生者が喪失を慰める為の精神修復法だ。
死者は彼岸へ、生者は此岸へ。
境界を分かち、二度と交わらないことを明白化する――区切りをつけるための儀礼。
生者は死者とは共に在れない。
屍体とともに暮らす文化こそ幾らか有れど、生者の時間は生者だけのものだ。
……ならば、自分自身は?
死の先に得た歪な生は、境界を乱す存在ではないのか?
――全く以て重要ではない。
そんな疑問は、5000年の間幾度となく繰り返した。
ボクは、ボクだ。
今更――生だの死だのに縛られてなるものか。
「――そして、最後に――
鉄の棺に入れた死者を、空に葬るんだ」
『それは――』
「言うならば、空葬。
そして棺は、いずれ奈落へとたどり着き――肉体は崩れ、魂はまた空へと登ってくる」
『――言い換えれば、奈落葬、と』
「そうさ、言ってみれば奈落は[死後の世界]の象徴――そのひとつなんだ」
――ああ。
それなら随分と――単純な話だ。
『つまり、死の比喩表現として[奈落に飲まれる]という言い回しがある、と』
「そういうこと。
関係あるようで、無いようで、ちょっとある――そんな程度の話さっ!
それよりそれより、ちょっと機体診させて――」
……話の切れ間に、不意を突かれたか。
まあいい、そろそろ頃合いだろう。
『申し訳ありません、そろそろ時間でして』
「え、なんの時間?」
『乗艦の、です。
辺境領へ、向かわねばなりませんので』
大きく首を傾げ、疑問符を浮かべるサイクリス。
{何を言ってるの?}とでも言いたげに。
「あれもしかして聞いてない?
私も一緒に行くんだヨー?」
『……は?』
「そりゃあ辺境領は奈落研究の本場で、研究者もたくさん居るけど、
オーチヌスみたいな大型艦をどうにか出来るのは私ぐらいだからネー☆
じゃあ一緒に行こうかメガリスちゃんっ!」
『……っ!!』
――そんな茶番を、幾つか、挟みつつ。
艦は離陸し、辺境領を目指し飛び立った――




