25話【黒翼、飛翔せり】
次いで、開いた虚空穴は3つ。
その全てから、先程より太く強靭な触手が押し寄せてきた。
――数量が、増えただけで――
一薙ぎに、一閃。
焼け爛れた触手片が灰と化し、吹きすさぶ寒風に拐われる。
――兵器たる人の形を――
次いで、左右から触手の群体。
最初のものより細く、長く、そして数が多いものだ。
――殺れる、と――
――よもや、本気で思考しているのか?
ボクは、左手を突き出す。
迫り来る触手の群れ。
獲物を絡め取り、巣穴に引きずり込もうと目論む筋繊維の塊。
『【造兵廠】展開』
丁度いい。
データベースから拝借した、この兵装を使ってやろう。
鉄血が噴出、展開、成形――その最中に、触手の一部が指先に触れる。
『――展開完了』
寸前、ボクは、飛翔した。
跳躍――否、紛うこと無き、飛翔を。
一対の、溶鉄の翼を広げて。
眼前、真下。伸び切った触手の影。
獲物を捉えそこねたその先端は、甚だ虚しくも空を切る。
――[回避行動に問題無し]
[兵装駆動、首尾上々]――!
そう、これは。
艦の書架にあった、船体性能の一部。
【対『虚空』航行_機構】の模造品にして魔改造品。
限定環境、特殊金属、特定電流によって得られる、
虚空に対して生じる引斥力。
それを利用することにより、鉄のクジラはどこまでも空を飛ぶ。
端的に言って、ボクはそれを拝借したというだけの話だ。
いま、ボクの背中には【造兵廠】によって展開された、金属質の翼がある。
この翼は、言うならば小さな彼だ。
空を翔け、進み、どこまでも往く。
――これさえあれば、ボクはきっと。
一人で、どこまでも往くことが出来るだろう――
……そしてそれも、生きるということなのだろうか。
などと、言っている場合でもないか。
ボクは右手の赤熱剣を構え、空中を泳ぐようにして、急降下する。
そして、伸び切ったままになった細い触手の束を、凄まじき高熱で一刀のもと切り伏せる。
一撃離脱。
虚空穴へと逃れて消えた触手を追うことはやめ、高所で俯瞰視点を取る。
――さぁて、どこから攻めたものか?
口の端を釣り上げ、端正な顔に似合わぬ歪みを浮かべる。
ボクは背の黒翼を大きく開き、次なる獲物に襲撃を加えようとしていた。
――故に。
ボクは、気づくことがなかった。
奇襲の可能性に――




