250話【骸神】
――虚空。
虚無たる虚空そのもの。
浮かび上がる、原初女神の影。
乱れ狂い這い蠢き轟き嘆き薙ぎ払う――強制稼働骸体!!
神骸は今にも後光めいた熱線を吐き大嵐を生み雷轟掻き鳴らし虚空さえも大震させんとする完全暴走下!
ああ、現に畏ろしきは原初神の神威よ!
神骸の、その半身でさえこれ程とは!
だが――暴走下である筈の神骸は動かない!
瑕疵か、故障か、動力不足か? 否! そんなものであるはずがない!
見よ、虚空を見よ!
天に相対する存在を見よ!
虚空に、虚空に立つ我らを見よ!!
両の足で立つ、我らの姿を見定めよ!
――然り! そこは疾うに虚空に非ず!
白く光放つ銀色の水面にして――【銀の大地】!!
極大放出量にて培われた、鉄血の球状要塞!
【月神】にして【大地母神】の権能!
我こそが【大地】と定義づける!
此彼の【境界】!
此に大地あれば彼にありきは空!
鉄血を[内包/体外世界]とし、[それ以外]を【空】へと書き換えた!
[相対する神骸]は元より【空の女神】に与えられしもの。
――即ち、空に封じられしもの!
然り! いま虚空に生じた【天地】!
神骸は空によって幽か也とも【封印】状態に在る!!
万一にも【異世界】への転移は封じられた!!
最大出力での行動など、望むべくもない!
されど――嗚呼、然り!
[軽微な封印]で抑えきれるものか!!
――理解している――
『――準備は、よろしいですね?』
{ああ}と、{応}と、{まあ、ね}と。
応ずる声――各々が、武器を構える。
巫女の傍らには、三種の幻獣。
海龍に群れる影生物は、流雲めいて龍翼めいて――今か今かと時を待つ。
金渦塗装された、[黒鉄機動決戦機]が掲げる[螺旋金槍]には――凍てついた魔力が満ちる。
――そして、ボクは。
幾千の砲門を真開いた要塞と。
化身たる女神の姿で。
虚空のように、大仰に。
攻撃を、砲撃を、襲撃を。
――命じ、蒼天色の刃を振り下ろす。
切り落とす――火蓋を、決戦の。
当に[文字の通りに]振り下ろされた刃は、虚無さえ裂いてごうと鳴り――
球状要塞に降る、大嵐のような熱線に。
激烈なまでの、迎撃を開始した――




