24話【燃えるような、赤】
――眼前。
両断される触手肉塊。
どす黒い粉末を撒き散らし、絶たれた触手が空へと堕ちる。
――よし。
十分に、有効だ――
ボクの右手には、薄く、長い板状兵装。
堅く鋭く磨き上げられ、鏡面と見紛う程の、腕部結合型金属剣。
――ただの"剣"で、有るものか。
押し寄せる別の触手へ向かい、疾駆跳躍を経て横薙ぎに斬撃を御見舞する。
斬りつける瞬間。燃えるような赤が、視界に入り交じる。
赤。
そう、文字の通りに。
――燃えるような。
赤熱した金属剣が、触手の一つを焼き斬り裂く。
『赤熱剣――出力、良好!』
思いついた以上、使ってみないわけにも行かないだろう。
それに、こういう手合いには、"斬撃"が無難な選択肢だ。
軟体生物としての推定前提……刺突は致命打に至らず、打撃は有効打さえ与えることは出来ないだろう。
であれば"斬撃"。加えて、"熱"。
熱するだけであれば、機構は容易く整えられる。
"鉄血"の消耗も抑えられるだろう。
”移動拠点”の防衛戦。[不測の事態]などいくらでも起こりうる。
いざという時に、【造兵廠】から展開できる兵装の選択肢を、より多く残しておくべきだろう。
ならばこそ、[容量]が小さく、機構が単純な赤熱剣。
――そういう選択肢は、決して悪手とはなりえない。
ボクは上出来の赤熱剣を構え、周囲を見回す。
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幾つもの虚空穴は開いたままに、中からは同じだけの触手が顔を覗かせている。
……さて、どうやって倒したものか。
手持ちの情報だけでは、精査不足だ。
[触覚感知器]が、[触覚補助器端末]が、背後から触手の接近を告げる。
[脚部先端後背部]を軸に、くるりと旋回。
両脚円規のように、足先を回し――下段から、赤熱剣を振り当てる。
瞬時炭化した切断面が虚空穴に消えるのを見送り、次の触手の襲来を待つ。
――良いだろう。
そちらがその気なら、こちらは"らしく"やらせてもらう。
ボクは、笑っていた。
嗤っていたとも言っても良い。
嗚呼、素晴らしいじゃないか。
"緊迫した思考"
"生きる為の闘争"
"どうすれば、勝てるのか"
ここには全てがある。
前世にも、揺藍にもなかった――
【あらゆるもの】が。
――そう。
だからこそ――
"生きる"に、値する。
そんな。
ボクを睨みつけるかのように、また一つ、●が開いた――




