243話【よあけのそらに】
「◯ ――見事。 」
完膚なきまでに――真二つに切り伏せられた、花弁。
捻れ狂い、切れ果て垂れた茎。
その下には――
『……』
茎の生えた――蜥蜴めいた怪物。
おおよそ花弁の根に位置する、土気色の怪物。
蜥蜴が本体だったのか、花弁が本体だったのか。
そんなことは、最早、定かではないが――
――見よ。
強靭な表皮は穿ち抜かれ、血一つ流れぬ急所を刳り裂いた。
――もう、動くことはない。
「◯ 流石、といったところか。
[鉄の時代の女神]、よ。 ]
『……お褒めに預かり、光栄です。
では――教えて、頂けるのですね――全てを』
「◯ ――良い。
望む侭に、問え。 」
『▼ ――ぼくにも聞かせてもらうぞ。
あなたはさっきから散々、わけの分かんない事を――
――メガリスは何者なんだ?
ぼくの機体を依り代にした、【転生者】じゃないのか? 』
――そうだ。
まず最初に、それが問題だ。
ボクの認識では――
転生して得た肉体は、紛れもなく機体だ。
だが、大地の女神は――
{ボクがそれ以前より、神格として存在していた}――と、扱っているように見える。
ならば――或いは。
ボクは、[安易な結末を齎す機械の神]などではなく――そうだな、なんと言っていた?
――{天地の子}
――{大地の女神の系譜}
――{空の伽藍}――
……空にある、大地?
それは、例えば――
「――メガリス、大丈夫か!?」
『――ヘル!
そちらこそ、ご無事ですか?』
どうやら、ヘルたちが追いついたらしい。
あれほど巨大な相手と交戦したのだから――まあ、良い目印にはなったことだろう。
「やれやれ――間に合わなかったかねぇ」
『――いいえ、セタ。
ある意味で、本番はこれからです』
「――そうかい。
ならまあ――それで、いいのかねぇ?」
セタの背後から寄ってきたのは、案内人だ。
[ ほうこくです、[管理権限保有者]。 ]
『[応答]、案内人。
――内容を』
小機人はふらふら浮きながら、答える。
[ かしこまりました。
[現在位置]
[根源領域]
[分割面:裏10]
{狂気}
いじょうとなります。 ]
『――[謝意]、案内人』
いちいち固有名詞が不穏だが――
少なくとも、根源なる場所に居ることは信じても良さそうだ。
ふと少女の方を見ると、ヘル達を見て{不思議そう}な表情をしていた。
「◯ ――誰か、あれらは。 」
『▼ あいつら?
仲間だよ、メガリスの。』
「◯ ――そうか。
それは――喜ばしい。
かつて大地に在った人の末裔に――
――ふむ、我が領域の外なるものか。
しかし――もう一人。
あの者は何者か。 」
『▼ ……は? 』
間の抜けた声を上げる巫女。
だが――なんだと?
『▼ 案内者なんて、あなたの走狗じゃないのかよ!? 』
「◯ ――知るはずもなし。
あれは私の領域外の存在だ。 」
――少しばかり、前提が変わってくるな。
この場所まで案内したのは――間違いなく、案内者だ。
ならば当然、大地の女神の御下へと導く、[神獣ないしは神鳥]だと思っていたのだが。
だが――もし、そうであるとするのであれば。
大地の女神がボクと巫女の行動に対し、逃走という形をとったことは不自然だ。
来ることが、分かっていたのなら――
からかうにしても、もっと別の手口があっただろう。
――つまり。
これは、単なる偶発的遭遇――
大地の女神との邂逅は、必然ではなかった――ということになる。
――だと、すれば。
案内者は、如何なる領域への案内人なのだ――?
「◯ まあ、よい。
――楽にせよ。
興は足りた。
応えよう、幼子よ。
――何を、知りたい? 」
――決まっている。
その為に――この領域に来たのだから。
『――では、まずは一つ。
ボクは、如何なる神性なのですか?』
「◯ ――ふ。 」
少女は、何処か懐かしげに微笑むと。
ゆっくりと、ただ簡潔に――その神名を、呼んだ。




