242話【あさきゆめ】
――待て。
まさか――知っているのか、[ボクという神性]を――?
『――[待機音]。
どこかで、お合いしたことが――?』
少女は慈しむような笑みのまま、満足そうに頷くと――言った。
「◯ あるとも。
おまえが、空の伽藍に抱かれていた頃から。
――玉のように、愛い形であった。 」
――改めて。
何を言っている――?
心当たりなど、ないのだ。
当機は[大工廠の水晶伽藍]で生まれた――その筈だろう?
互いの認識違い、[空の伽藍]が[水晶伽藍]という可能性もあるが。
或いは――
[近似する別個人]と、誤認をしているのか?
「◯ ――嗚呼。
彼の時は大儀であった――
我が躯骸を撃ち込む、辛い役目を任せてしまったな」
昔日を懐かしむように、目を閉じて頷く少女。
……これは、どうしたものか――
『――申し訳ありませんが、身に覚えがないのです。
どういうことか、説明をしていただけないでしょうか?』
「◯ ――ふむ。
……。 」
鋼の瞳が冷たく光る――
――空気が、変わる。
……礼を失したか?
『▼ ……げっ―― 』
『――メシュトロイ?』
青褪め、身を竦ませる巫女。
――{恐怖}を、感じているように見えるが。
「◯ 幼な子よ、望むのならば、答えよう。
だが――そうだな。 」
『――っ!』
突如、足元が激しく振動し、怪鳥音めいた耳障りな鳴き声が響き渡る!
怪音とともに地より飛び出したのは――鮮やかな、極彩色の花弁!
穏やかな日差しを遮るように、大木めいて太い茎が直立する!
続いて現れたのは、鞭のように撓る無数の茨!
地を裂き風を裂き、触れるもの皆斬り裂かんと消魂しく唸りを上げる!
――花! 花の怪物!
そう評するに相応しい巨大な怪花は、縦横無尽に暴れ回りながらも少女には触れようともしない――!
「◯ ――供せよ、余興だ。
私を楽しませよ。
長じた幼子の、力が見たい。 」
怪花の猛攻及ばぬ安全地帯。
そこには、巫女の姿もあり――
「◯ ――まさか、止めはしないな、巫女よ? 」
『▼ ……畜生め。
昔っからそういうところ、変わってね―んだな、あなたは。
――観客気分か、呑気なものだ。
だが、そんなことはどうでもいい――
「◯ さあ、興を捧げよ!
鉄槌たれ!
銀槍たれ!
赤銅斧たれ!
――天地の子よ! 」
――戦闘の奉納。
神への供物、奉納芸事。
金銭や生贄などではなく、何らかの行為を捧げることで――
――願いの、代償と為す。
[問いに答える]ことを[要求]するのであれば。
[戦い]を以て[女神を楽しませよ]――ということか。
――いいだろう。
そのつもりなら――こちらも、望むところだ。
造兵廠を開き、兵装を組み上げる――
『――では。
どうぞ御照覧あれ!
呉呉も、お見逃しなど無きよう――』
当機は蒼天の刃を携えて、咲き誇る妖花に挑みかかった――




