233話【いのちあるもの】
『▼ ――とはいえ。
まだあなたが[完成体/楔機体]なのかは、分かってないんだぜ』
『――ボクは』
『▼ きみが純然たる機人であるならば――
――きみは、ぼくの娘だ。
なんだってしてやれるし、なんだってしてもらうさ。 』
{だが}と前置き、巫女は続ける。
『▼ あなたが【楔】であるならば――
[勝手に死んだ第一の敵]の一部。
――[復讐し損ねた相手]の[係累]!
[十分に復讐対象たりうる]! 』
『――どちらでもよい、でしょう?』
『▼ なッ!!? 』
『両機体とも――
ボクのもの、なのだから』
『▼ ――っ!』
口を閉じ僅かに黙り込んだかと思うと――巫女は、笑い出した。
『▼ あはははッ!
やっぱり女神共そっくりだ! チクショウ! 』
『どうやら、女神に真っ当な者は居ないようですね?』
『――全くだ。
あはははっ!!』
一頻り笑い――話題は、推移する。
――そうだ、聞いておくべきこと(がある。
『――そういえば』
『▼ なんだよ、曖昧楔野郎?』
『如何様な手段を以て、当機を?
――以前は出来なかった、と言っていましたが』
『▼ ……まあ、単純な話さ。
当該機体は現在――生命だ。』
『――それは』
『▼ きみがあの機体として生まれ、名を得て、活動状態にあった以上――[原初女神の半身機体?]はもう、【生命】だ。
それも【屍より生まれし機】――妖異の類だ。
憑依同化支配するのは、簡単だったよ。』
{記録は死ぬほど読みづらかったけどね}と毒突き、{面倒くさそう}に首を振ってみせる。
――しかし、そういう理屈か。
命なき鉄塊に干渉することは出来ないが、生命を得た機体であれば【生命の神】としての能力を行使することができる――
――筋は、通っている。
だが、ならば[生命を与える]者は[如何なる神性か?]
[虚空]によって[ボク自身]を与えられたこの機体。
それが転生だと、前世に対する今世だと、ずっとそう思ってきた。
――だが。
繋がらない、齟齬が生じる、矛盾撞着とさえ言ってもいい。
今世最初の記録。
地の底の、伽藍の中の、怨み歌。
――[合致しない]。
当機が完成したのは――[大規模な地殻変動]より以前である筈だ。
主任の完成機体が作られたのは、【大破砕】で巫女が[生命の女神と化した]以降――
――何かが、おかしい。
[地の底の最終兵器]は、〓〓に埋もれていた――?
『▼ ――メガリス? 』
『……いいえ、何でもありません。
それより――』
――まあいい。
少なくとも当機は、巫女の子であることには変わりあるまい。
今は当面の問題を対応すべきだ。
……ああ、そういえば言っていた。
何と言っていたか? そう――
『そろそろ、[計画]とやらを明かしてくれませんか?
当機が必要なのでしょう――?』
巫女は虚を突かれたように手を止め、ゆっくりと頷いた――




