231話【工匠】
『――何が言いたいのです?』
『▼ ……長くなる。
それでもいいかい? 』
『――今更。
そんなところでしょう』
巫女は吐き捨てるように笑い飛ばすと、仮面の位置を直しながら言った。
『▼ はっ、言えてる。
だったら遠慮なしだ。
まず、ぼくの目的は―― 』
『【大地の女神への復讐】
【あの九頭邪龍の討滅】
――そんなところでしょう?』
やれやれとでも言うように手を振り、指一つ立てて後ろを示す。
『▼ ああ、そんなところだとも。
この場合、重点なのは後者だ。 』
『奇遇にも、当機も[同一目的を有している]なのですが』
『▼ ――そりゃあ、そうさ。
というより――人威追想機の後期型番……33号は別か。
それらの機体は、[九頭邪竜撃滅]に作られたと言っていい。 』
――ならば、やはり――
『関わっていたのですか――開発に』
『▼ ……そうさ。 』
――現場主任。この遺跡と化した研究施設の、開発を司る者。
道理、そう言ってもいい。
だとすれば、もしかしたら巫女は――
『▼ 元々、ぼくはライムリアの人間さ。
【神聖国】の[竜兵]に対抗するために、魔導兵器を造っていた。 』
――だが、開発者であるのならば――
『――何故、[大地の巫女]などと?』
機械技師、神託代行者、あまりにも接点が見当たらない――
『あー……。――省略! 省略する!!
ただ昔からずっと、大地の女神の声が聞こえていただけだっての! 』
――必要以上に、詰める箇所ではない、か。
しかし、それでも――
――巫女と女神は、どんな関係だったのだろうか?
そればかりは気になって仕方がない。
詳しく聞く機会を、待つとしよう――
『▼ とにかく、それで――
――神聖国が持ち出してきた九頭邪竜、あれに我軍が盛大に敗北した。
どうにか対応すべく、貴重な人型機人まで持ち出して――
――撃破され、修復し、再出撃させて――
そして、突然――戦争は、終わった。 』
『大破砕――』
『▼ まあ――ぼくは知ってたけどね。大地に聞いていたから。
大破砕の前日、大地の女神がぼくに言った。
{お前たちが触れるべきではなかったものを、砕く。}
{世界は再び、最初の形に還るだろう。}
{だが、それによって――}
{この世界は、かつて失った、欠けているものを手にする。}
{今の世界は崩壊するだろう。}
{逃れるすべはない。}
{巫女よ、我が声を聞くものよ。}
{死ね。}
{私とともに、死ね。}
{始まりはここに終わり、再編の時が始まるのだ}
――ってね。 』
『……』
如何にも女神らしい傲慢な物言いだ。
どこまで本気で言っているのか分かりもしない。
――だが、どこか――
懐かしいものを感じるのは、何故だ?
『▼ 巫山戯るな、って思ったよ。 』
『――同意』
『▼ そして楔が降ってきて――ぼくは、死んだ。
一発だけ最重要機密兵器のを最大出力投射してやったけどね。
――もちろん、無駄だったよ。
それで、そう――
その時に会ったのが、多分【虚空の女神】だと思う。 』
『……{¿ 〓〓■、〓〓〓■〓■〓〓〓〓 ?}』
『▼ そう、正にそれさ。
ヒトを勝手に神様なんかにしやがって、何様だよ女神様。 』
『――[全面的同意]。
いずれ後悔させてみせます』
『▼ ――へえ。
とにかく、ぼくも神様なんてモノになっちまった。
仕留めそこねた仇敵まで体に押し込まれてね。 』
――しかし、何故。
女神は、内包虚空封印を?
要因自体は幾らもあるが、そうするに足る決定打はない。
ただの嫌がらせか、面倒くさくなったのか、或いは――
『▼ そこからは聞くも涙、語るも涙――語るつもりもないけどね。
ひどい有様になった故郷を這いずり回り、やっとのことで大工廠まで帰ってきた。
――そして、とんでもないものを見つけた。
手に入らない筈の、ずっと求め続けたものを。 』
――話しぶり、{興奮}ぎみの語気、今までの話の焦点――
――考えられるものは、一つしかない。
『……仇敵。
その、同じ素材――』
『▼ そうさ! 地の底に埋め立てられた原初女神の骸!
こんなものが足元にあるなんて、思いもしなかった! 』
『――それで。
何を作ろうとしたのです?』
『▼ 決まっているさ!
九頭邪竜を討ち滅ぼす為の魔導兵器を!
体内に詰め込まれた異物を切除する刃を!
――即ち!
原初女神の骸より製造される、最高の魔導人形を!
至上大工匠リリトゥスの全身全霊を以て!
究極の形を――この手で作り出してやるッ!』
{――と、まあ}
{その時は、思っていたのさ――}
などと、嘯いて。
仮面の巫女は{悲しげ}に、{笑おう}としてみせた――




