22話【クラーケン】
「敵襲だ。おそらくは虚空海魔級、多曲触手種の【海魔】だ」
円形の卓の端に、ヘルが座っている。
ここは潜空艦オーチヌス、内包空間、主要区画。
通称『指揮室』と呼ばれる、外敵との遭遇に対応するための部屋だ。
鳴り響いた警報に呼び出されたボクは、艦の案内の通りに、この部屋の扉を開けた。
ヘルとフルカは深刻そうな表情だ。
……敵襲。それもおそらく、容易には勝てない相手だろう。
『――打って出ます。詳細を』
「待て、メガリス」
「そうです! いくらメガリスさんでも無茶ですよ!」
ヘルとフルカは慌てた表情でボクの行動を制する。
駄目だろうか? せっかく、戦闘による肉体の実地試験を行う機会だというのに……。
ボクは不満をなるべく顔に出さないようにして、状況の説明を求めることにした。
『では、何が問題なのでしょうか?』
「口で言うよりは、資料を見たほうが早い――フルカ!」
「はい! 情報室! 敵影と関連情報の提示!」
ボクらの目の前にある、硝子状の円卓が明滅し、
文章や映像の類が、少しずつ円卓に投影されていく。
『……少し、時間がかかるようですね』
「――まあ、待て。情報の把握は大切だぞ?」
『肯定します、ですので――[要求]オーチヌス先輩、[データベースへの接続]を』
[*承認]
『ヘル、その【海魔】の名前は、何というのですか?』
「え。それは、まだ――」
不明、か。
なら、違う接近手段が必要だ。
『では、その【海魔】の特徴らしきものは?』
「あ、ああ。奴は数本の触手があり、虚空からそれを突き出している様子だった」
『ありがとうございます。 {検索要求:[触手] [虚空潜航]}』
[*検索の開始]
――[*該当確認]
[情報の提示:|クラーケン]
『――海の魔物……?』
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【虚空海魔・奇想旋曲体】
│浮遊島より離れた外空に生息する大型の{妖異}
│尖塔状の本体と、十本前後の縄状触手器官を有している。
│
│本体は虚空面に潜航させたまま、空域上へ触手を突き出して獲物を探す。
│捕らえられた獲物は虚空面の本体付近まで引きずり込まれ、捕食される。
│
│生息数の少なさから、生態については不明点が多い。
│消化器官らしき部位は確認されておらず、捕食の目的は不明。
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奇想旋曲体……とにかく、そういう【魔物】が相手ということらしい。
「――よし、全部出ました!」
「うむ、コレを見ろ、メガリス!」
ボクが情報を記録している内に、データの表示が終わったらしい。
ボクは円卓へと視線を向け、表示されている映像を覗き込む。
『――これは……なるほど、そういうことですか』
どうやら、一筋縄では行かないようだ――




