229話【せかい】
――原始林。閉じた虚空、付け直された仮面。
[女神?]より逃れ、此処は巫女の内包世界。
理解している、必要な事は――
『――答えてもらいます、訳知り顔の巫女さん。
【女神の姿をした怪物】は何なのか、そして――』
慎重に、言葉を切りながら、圧をかけ――言葉を、続ける。
『あれは、何故』
――そうだ。
『破壊されねばならなかったのですか?』
――なぜ、そう考えなかった?
『――世界を、滅ぼしてまで』
――両天秤を釣り合わせるほどの驚異だと。
仮面の目元を隠し、{あ~}と考え込むような声を出す。
一頻り考え込んで後、巫女は応えた。
『▼ 最初の質問に答えるには――
――後者の質問について答える必要があるな』
――何らかの関係。
当然、在って然るべきか。
破壊によって世界が崩壊しようとも、それでも破壊すべきもの。
如何なる驚異であれば、そんなことが出来るというのか。
『▼ ――単純な話さ。世界――
――そんなものより、遥かに大きなものを滅ぼしかねない代物だからだよ』
世界より、大きなもの。
――知っているはずだ、お前は。
世界を、越えて来たのだから――
『内包世界、体外世界――
――界外宇宙――』
感心したように{へぇ}と呟くと、巫女は続けた。
『▼ 勘がいいじゃないか――
ヒトの中に内包宇宙があり――その外側に外包宇宙がある。
なら、外包宇宙より外側に、より大きな世界がある――
ってのは、自然な話だろう? 』
――ならば。
『【世界の外側】に害を成す――【九頭邪竜】は何だというのです?』
『▼ ――その答えが、最初の質問の答えにもなる』
『ならば改めて問いましょう。
世界を滅ぼし、外世界にも害を成さんとし、女神共によって封じ殺された――
――【女神の姿持つ竜】は、如何なる存在か!』
『▼ ……知れたこと、さ! 』
腕を振り拳を握り、{激情}を込めて巫女は叫ぶ。
『▼ あれは、言うならば――この世界そのもの!
嘗て、そうであった骸!』
『――まさか』
『▼ そう――空と大地を産み落とした【原初の女神】!!
その骸を使って作り出された――【境界破壊兵器】!
『!!』
原初神――世界そのものの素体となる[無から生ずる神格]か!
混沌神めいて大淵の巨人めいて、天地を創造する材料たるもの!
――確かに。
空の女神、大地の女神と聞いて――その存在を、想像しなかったわけではない。
だが――骸?
骸だと?
神話的解釈に、倣うならば――
それらは全て、空と大地となって然るべきだ。
実体ある骸。
そんなものを残すような存在とは、とても思えないが――
『……何者なのです、その女神とは』
『▼ ぼく自身は知らないが、聞いたことはある。
【原初の女神】は――』
顰面。
仮面の下に顔など無いが、そう思わせる空気を醸す。
{嫌な記憶}を想起するような、{忘れたいこと}を絞り出すような。
それでも巫女は、言葉を紡ぐ。
『▼ ――一番最初の、【来訪者】だと』
そして僅かな拍を置き、言葉は再び紡がれる――




