222話【リジェネレイター】
『――では。
行きますよ、巫女』
『▼ ――は?
[対象物の不可破壊性]を聞いてた――』
『――【楔式黒色戦騎槍】!』
『▼ なっ!!?』
本気の{狼狽}、加えて{嫌悪}。
幾許かの{恐怖}に交じる、ほんの僅かな{畏怖}。
『▼ うわっ、やめろ――そんなものを近づけるな!』
[致死案件]だというのに、目を向けることさえせず外方を向く。
――まあいい、そんなことよりも――
眼前、無間に等しき虚無の距離。
大口を開ける九頭竜、その一頭。
――先程の超出力熱線!
角度から見て同一砲塔――何たる装填速度か!
だが――
――攻撃速度なら、当機も負けてはいない!
『――[拘束解除・自在楔無尽]ッ!!』
『▼ !!?』
仮にも槍の様相をしていた〓〓が解き放たれる。
其れは槍、其れは爪牙、其れは剣、其れは天地を繋ぐもの、其れは柱、其れは神の杖――
――其れは、酷く、恐ろしく、禍々しく、どこまでも真っ直ぐに捻じくれた――【楔】なるもの。
蛇のように蠢いて、臓腑のように脈打って、水面のようにさざめいて、死体のような静けさで、脳信号のように速やかに――生命の如く、揺れ動く。
――嗚呼、この悍ましき力よ――
穢炎を討ち滅ぼしたように、竜を穿ち抜いてみせよ!
『――ッッ!!!』
[意識の喪失]、[感覚の遅延]は無し。
――見えている、[感覚器正常]。
[初使用時]とは――違う!
凄まじき伸長、最早爆発的成長にも似て。
伸びる、広がる、枝分かれする――悍ましき楔の群れが、須臾さえ超えて虚空を征く。
――無間にも等しい距離、其れさえも刹那。
大口を開けた竜の頭は、無数の楔に貫かれ――
熱線など放つ間さえ無く――粉微塵となって、虚空へと消えた。
――だが!
破壊された頭部は連鎖が届く前に切除され、鈍色の粒子が幻肢に集束する!
そして――ああ、やはり! 粒子によって構築されたのは、原型と寸分変わらぬ竜の頭!
再生修復能力! 微小粒子を用いた自己修復!
当方の鉄血での修復と同種だが――何たる速度か!
『▼ そんな欠片じゃ無理だっての!
だからとっとと虚空外に―― 』
『――ええ。
ですが、一つ――わかりました』
『▼ ……はぁ? 』
『[大本の楔]は[竜頭一つ]を破壊した、ということです』
――そう。
九頭竜がいま八頭竜なのは、【楔】の、【大破砕】の残滓。
ならば――如何にして、再生不能にしたか?
例えば単純に――修復速度を上回る破壊速度。
仮に正解であれば――最も容易で、同時に最も困難ということになる、か。
――あるいは。
再生を司る電算回路――機能自体に瑕疵を与え、万全な動作――[全ての竜頭の完全再生]――を、妨げる状態にしたか。
どちらも十分にあり得るが、まず探すべきは[再生装置]の方だろう。
問題が、あるとすれば――
『ッ!!』
――見えるのは竜頭ばかりで、胴体部をまるで見せないことだ。
既のところ再装填放射を回避し、竜を観察する。
――首を辿ったところで、胴体にたどり着ける構造なのか?
可能性としては――この東洋龍型機体が半自立型の独立機体、である場合。
その場合、首を辿っても尾があるばかりで、司令塔機は操作可能な最大距離に位置取り、決して近づかないだろう。
……とはいえ、他に手が目算があるわけでもない。
包囲下で殲滅されるのは、いくらなんでも御免被る。
そんな有様は看過できない。十分に備える必要がある。
――さて、どうしたものか――
『!』
『▼ 何を――ボケっとしてんだよ!』
不意を突かれた一撃を、傍らの巫女が捌く。
――ああ、そうか。
まずは、此方戦力のこと。だな――
『――メシュトロイ』
『▼ 何だよ!』
『貴方の能力を――教えて下さい』
『▼ ――はぁ!?』
本気の{困惑}と若干の{羞恥}を余所に、ボクは[現状戦力確認]を開始した――




