221話【今や虚ろの空に在り】
『▼ 嗚呼――もう、畜生ッ!! 』
虚空より、現れたのは――
祭祀じみた衣装を纏った、少し、背の高い女――女神の顔の。
『――こんにちは、巫女さん。
ようやくお目にかかれましたね』
巫女は{心底嫌}そうな満面の笑みを浮かべ――
『▼ やかましい! くそメガリス!
ああもう、だから嫌だったんだ!!』
――口汚く、罵り言葉をぶつけた。
どうやら意外と、可哀らしいやつらしい。
『――もう一頭は?』
『▼ [大破砕の神罰の余波]で壊れた!
ありえないだろ、[他の首まで破壊が届いて]当然なのにさ!』
『……!』
瑕疵――なるほど、それも有り得るのか。
――隠れた一頭からの奇襲、そればかりを気にしていたが。
――だが。
ならば、腑に落ちない。
巫女もそう考えている、ということ。
[楔]によって[破壊]された――もし、事実であるならば。
――全て破壊されている。その筈だ、[破壊の連鎖]によって。
ならば、何故――[一頭欠けた八頭竜]は、[未だ健在]?
――可能性の提示。
[破壊部位]を[切除]した。
おそらく、そう考えるのが妥当だろう。
――つまり。
分離機構、自己修復、ないしは何らかの作製能力――
..〓.〓〓..--――
『ッ!?』
――なんだ、これは――
流れ込んでくる――情報が――違う、これは――
――--..〓.〓..
『――解錠、解凍、暗号化解除――
――そういうことか!』
嗚呼――当然、在って然るべきだ。
当機体は――決戦兵器なのだから!
電脳書架の解除された機密!
然り――仮想敵の性能!
当機体は九頭竜を知っている!
【人威追想機34号】は【九頭邪竜】を撃破するために製造された!
『▼ 何を――言ってんだ!? アン、エン……?
あなたの記憶は分かりづらいんだよ!』
……暗号化。
どうやらボクの機体の思考記録も、暗号化に近い状態にあったらしい――比喩的な意味で、だが。
理解できない言語、理解に困難を極める言語。謎めいた薩摩弁暗号のようなものか。
嗚呼、全く――
他者の頭の中など――容易に理解できるものか。
――まあいい。
そんなことは重要ではない。
情報、情報だ。
情報は活用されるものだ、情報は活用すべきものだ。
躊躇う必要など無い――
[緊急性指標:基準値超過]
[特機電脳書架]への[回路]形成...完了。
[情報開示要求]...[受理]
[命令待機:要求書架の提示]
決まっている、その名は――
『――九頭邪竜!』
[受理]――[展開]...
...[α^3分類][九頭邪龍][ジーハイドラダォ][ライムリア国民最大の敵][山一つ踏み砕くほどの巨体][微小粒子機械構造工法による従来より遥かに短縮された再生時間][他の竜人機同様の可変機構][大鉱床大陸消滅事件を忘れるな][最大射程無限大にも等しい消滅粒子砲][宇宙樹はいつもあなたを見ている][銃を持て鎚を持て戦斧を持て][全ては戦士たるもののために]...
幾許か混じる〓〓、拾い捨てては選び択ぶ。
――[完了]
ああ、宜しい、宜しいとも。
やってやろうじゃないか、5000年前のやり残しを。
それがどれ程の意味があろうとも、一つの意味さえなかろうとも。
これだけは言わせてもらう。
――反撃は、ここからだ――




