215話【虎穴】
『……貴様……!』
思わず、口を衝く悪態。
――{威圧}の意図、そんな意識さえ無く。
簒奪者は整った微笑みを崩し、心底愉しそうに嘲笑う。
『▼ あはははは!! 本当に嫌いなんだね、あいつのこと!
いつもいつもいつも! こんなふうに笑っててさあ――』
『……知っているのですね、やはり』
――遮り、切り込む。
ちらりと見せた女神の笑みを中断し、{苦々しさ}に溢れた表情を見せた。
『▼ ……そりゃあね。
多かれ少なかれ、だいたい全部アイツのせいさ。
あなたの言う眷属神って連中はね。 』
『――ッ』
――全く。
とんだ情報的大損だ。
こちらの記録を好き勝手使われては――やりづらいにもほどがある。
――だが。
それは、つまり。
『そこまで分析済みなら――
――これから、ボクが何を聞くかぐらい分かるのでしょう?』
却って話が早い――そう考えることもできる。
『▼ [虚空の女神]の居場所は知らないし、知っていても答えるつもりはない。
[願ったこと]を答える理由はないし、わざわざ手札を晒す必要はないだろう?』
事実上――何も言っていないのと同じだ。
だが、意図的な欠落には、{誘導}の意図が見える。
『随分と余裕ですね。
切り札に余程の自信が?』
『▼ ――さぁてね? 』
悪戯っぽく、些か滑稽に、薄ら寒く嗤う。
あまつさえ、頭部前面を赤色変容さえして見せた。
――挑発のつもりか?
だとすれば、あまりにもわざとらしい――
『▼ ――それより、いいのかい? 』
『――!』
『▼ 愛しのお嬢様は、未だぼくの手の内だ。
のんびりお話してていいのかい? 』
――然り。
それが、それこそが――問題だ。
ヘルの居場所――
――それを、聞き出す必要がある。
尤も、簒奪者が機体の思考機能を用いている以上――どうしても、記録が残るものだ。
口から吐かせずとも、拘束して情報を奪ってしまえば事足りる。
――つまり。
そのくらいの事は、当然、想定してくるだろう。
意図的な誤情報、妨害、妨害算式はもとより。
交渉を目的として、人質自身に何らかの時限装置を仕込む――その辺りまでは、常套手段だろう。
各種妨害を掻い潜り、人質を救出できるか?
――不確定要素が多すぎる。
強硬突破は、良い選択肢とは言えないだろう。
ならば――どうする?
主導権は敵方にある。
――奪い去らねばならない。
ならば今、取るべき手段は――
……。
……ああ。
全く――
『【残骸情報収集機】!』
『▼ ! 』
――非合理な!
不確定領域を取るのが最善――彼奴の想定内こそが想定外!
最も高危険度な選択肢こそが活路とは!!
{いいのか?}{それで}と問うかのような薄ら笑い目掛けて――
――畝る触手が、経路を開いた――




