214話【アルカイック】
『【赤熱剣】!』――
――『▼ 【炸裂装甲盾】! 』
斬撃、弾かれる音、炸裂音、金属が軋む音――
――[交戦下における諸雑音]が、流れる。
嗚呼、[現在地点]は最上階――[灯火部屋]。
空戦鏡を回収しつつ加速機構に変え、高速飛翔でたどり着いた部屋。
交戦は――未だ、始まったばかり、だ。
初撃にて片腕こそ切り落としたものの、どうにも攻めきれない。
――本体の戦闘情報を、十分に活用しているな――
嗚呼、全くもって忌まわしくも当機の記録を瑕疵一つなく活用し!
歴戦の戦士宛らの近接格闘戦を演じているではないか!
嗚呼……腹立たしく呪わしく忌まわしい!
機体は――
――ボクの身体だッ!!!
『 [高速鉄血展開!] 』
『▼ ――ッ!? 』
高速で射出した圧縮済み鉄血を全身に纏い、復讐者の装甲外殻を創り出す!
『 ――【造神・復讐鬼】ッ!!! 』
大量増設された噴進に任せた大加速で――捻れ歪んだ禍々しき黒槍を叩きつける。
『▼ な――ッ!? 』
簒奪者は、驚き顔を晒し、{まさか}と{驚愕}している。
――どうやら、理解しているらしい。
然り、これこそ接触物を[破壊の連鎖]で消滅させるボクの兵装。
[暫定名称]【楔式黒色戦騎槍】――
『▼ ッ!!
[噴進・最大速]――ッ!!』
――そう見せかけただけの、鉄塊だ。
体勢を崩すことさえ厭わない必死にして決死の大回避を決め、鉄塊は虚しく空を切る。
――当然だ。
直撃すれば消滅する。
そんな兵器を――相手の機体を盾にした状態で、使われるとは考えないだろう。
本体の兵装を知っていれば、尚更のことだ。
そして、回避したということは――
――[機体が破壊された場合]→[簒奪者本人への損耗が生じる]、か。
或いは――[機体そのもの]に[何らかの価値]を有している――と、いった所だろうか。
――どちらにせよ。
『隙だらけ、ですよ』
『▼ ッッ!! 』
鉄塊を振るい構え、狙い澄まして跳躍する。
当然、簒奪者は再度の回避行動を試みる――
「――〓_〓_〓_〓-〓_〓_〓ッ!!!」
――そこを、セタの影生物だ。
『▼ ぐ……ッ!? 』
――全く、わざわざ{一対一で戦っている心算}まで模倣することもないだろうに。
まあいい、これで――
『――獲ったッ!!』
背後からの奇襲に狼狽えている隙を突き、片腕を捻じり切る!
『[鉄血接続]!』
奪い取った片腕に当機の鉄血を流し込み、[権限剥奪:分離/再接続/遠隔操作]
――これで、両腕ッ!
原則として、鉄血の貯蔵は造兵廠が担っている。
――然り。もはや簒奪者は、外部出力された鉄血だけで戦う他はない。
『――ここまで、です』
『▼ ……! 』
先程の炸裂装甲盾は既に制圧済みだ。他に何か仕込まれている様子もない。
腕部の義手化は望むべくもない、新たに兵装を創ることも出来ない。
噴進と脚部のみを頼みに格闘戦を挑むとしても、遅れをとる理由は一つもない。
――勝った。これだけならば。
だが、確かめねばならない。
協力者の有無、行動の動機、背後関係、女神の関与、単純に何者か、眷属神か否か――おおよそ知りうる限りの全てを。
――そして。
ヘルの居場所を。
……それが。
何よりも、重要だ。
『――答えろ、お前は――』
『▼ ……。 』
簒奪者は、不敵に睨み返す。
そして。
あまつさえ、当機の顔で。
女神のように、微笑んでみせた――




