212話【螺子の回廊】
長い長い、階段を下る。
遺伝子めいて施条腔綫めいて、螺旋を刻み下り降りてゆく。
――変化は、殆ど無い。
どれほど長く下っても、目に映る景色は代わり映え一つしない。
壁面、階段、手摺、接合面――あらゆる要素に於いて。
存在して然るべき――僅かな傷痕、材質の変化、不均一な加工精度――
――そんなものさえ、何一つ無い。
均一、画一、万遍なく同質的で――
――あまりにも、変化の無い。
余裕ひとつなく、一切の変質を許さない。
却って非工業的な、無機質な不気味さを感じずにはいられない。
{本当に、先に進んでいるのか?}
そんな疑問さえ生じうる、あまりにも手応えのない迷宮下り。
――無限円環構造?
可能性としては、考えた。
――あり得なくは無い。
例えば、フェンの斉術――空間支配に類する魔法。
あのような技法であれば、無限円環も可能だろう。
――だが。
現状では、円環は考えづらい。
先述した通り、変化は一つもないのだ。
仮に、無限円環を、通り道に置くとして――
――解除手段。ないしは、正解の通路。
解答が、ない。そんなことが、あり得るだろうか?
現時点で、解答は、一つもない。
何の仕掛けも無い以上、今はただ進む以外の選択肢は有り得ないのだ。
――それに。
当機も、ただ目だけで見ているわけではない――
『……【音響索敵機体群】――』
入り口から一定の間隔をおいて、展開された浮揚機体群。
これはルゥの搭乗しない手動型の【空戦鏡】に、【音響式探知機】を備え付けた――索敵機だ。
もし何らかの変化があれば、変化を捉えることなど造作もない。
鉄血の浪費は避けるべきだが――それでも、索敵網に穴が無いよう配置したつもりだ。
索敵機の、機体数。
それだけが、ボクらの進んできた距離を保証してくれる――
『――【玖拾漆】』
97番目の数字を刻み、進行を再開する。
入り口は、灯火の部屋は――紛れもなく遠く、離れた位置にある。
――然り。
進んでいる、進んでいるとも。
それ自体は、間違いなく。
あの無限の虚無に比べれば、この程度――
――今はただ、そんな無意義な比較をするほかない。
先へ、先へ。一つ二つ、三つ四つ、六十四つに百二十八つ。
慎重に、大胆に、精細に、広範な視点で、ただひたすら進む――
『――?』
訪れた変化、下方に――光源。
「なんだい、あれ?」
『――[情報の不足]。
ですが、あれは――』
見る限り、壁の一角がぼんやりと光を放っているようだ。
――罠か、仕掛けか、あるいは他の何かか――
「……近づいてみるかい?」
『――肯定。
そうするより、他にありません』
ようやく訪れた、変化。
それが吉兆であれ凶兆であれ、{歓迎}すべき感情だ。
当機達は少し足早に、光源へと近づいていった――




