204話【再会】[side:33]
[ ――っ。 ]
ひとまず、爆風は……収まったようだ。
固定化された流銀は、爆発を完全に跳ね除け――
――さながら時でも止まったかのように。
動かず揺れず、傷一つない――[被弾前の状態と同一]だ。
爆発の影響は、さほどない。
広大な部屋一帯に広がった爆炎は床壁を多少焦がしたものの、地形自体を変えてしまう程の破壊は生じなかったようだ。
そもそも――爆発自体が、強力なものではなかった。という可能性は?
なくはない――が、むしろ。より高い可能性を示す証拠が目の前にあるのだ。
――然り。
ボクは眼前に平然と佇む水晶の伽藍を見上げ、それも傷一つ汚れさえ存在しないことを確認する。
――圧倒的なまでの、強度。
極端なまでに、頑丈に構築された領域。
複数階層を撃ち抜き穿つ大閃電さえも容易く弾き――
防衛機体の自爆程度ではビクともしない程に、固く硬く堅く構築された重要防御区画。
――それが、何を意味しているのか?
おそらく――
[ ――!? ]
……通信?
誰から――いや、これは――?
「どうした、メガリス?」
[ 敵機からの、通信です。
――おそらくは、爆発前に送信されたものかと。 ]
「――通信?
遺言か、一刺しか――」
[ 少なくとも、"攻撃"は含まれてないようです。
――中身を、確認してみます]
それは、簡素な――おおよそ、ささやかな量の文面。
記されていたものは――
{見知らぬ君よ、せっかく33号の中にいるのだ}
{ちょうどいい、ひとつ頼みを聞いてやくれまいか}
{34号は、もはや目覚めることはないだろうさ}
{だからまあ、もう、好きにしてくれて構わんよ}
{それでは――さようなら、客人}
{――あるいは}
{我々が、【神】と呼ぶ者よ}
[ ――ということ、です。 ]
「頼み――か。
ところどころ言葉選びが特徴的だが、そうおかしな話じゃないな」
――そうだ。
去りゆく者の最後の言葉として、残されたものを託す――というのは、不自然な話ではない。
しかし、客人――すなわち、稀人。他の場所から来た者だ。
それを"神"と定義づける、それ自体はさほど珍しい事例でもない――だが。
呼ぶ。"名前をつける"。区別する必要がある――ならば、つまり。
――前例が、あるということ。
――[以前の客人]は、[如何なる存在]か?
……。
これ以上は、情報が不足しているな。
大眼球がいなくなった以上、真意を探るのには限界がある。
せめて、他の情報源があればいいのだが――
[Å ・ ・ ・ ・ ・ ]
――おっと。
危うく忘れるところだった。
17号からも、情報を引き出しておかねば――
先程は情報提供の途中で妨害されてしまったが、今は再度フリーズしているようだ。
――再起動したら、続きを話すだろうか?
それとも――気が変わり、だんまりを決め込むだろうか?
その可能性も否定できない。
ならば念の為、【残骸情報収集機】で直接情報を抜いたほうが確実だろうか。
……仮に、"話した"として。
話した内容が真実かどうかを確かめるすべはない。
あるいは、ヘルの魔法にそういったものがあるかもしれないが――ない、という場合のことも想定する必要がある。
裏を取る――その意味でも、ここで直接的情報収集は悪い選択肢ではないだろう。
そう思い、右腕を変形させようとした時。
――その時だった。
[ ――!!! ]
「どうした、メガリス?」
[ いえ、これは―― ]
――反応。
探知識別機能における、"特定の個体"を示す信号。
誰よりも知っているはずの。
されど、"それ"を見る機会など、そうそう有り得ぬ筈の。
反応は次第に近づき、視認が可能な位置へと至る。
派手な音も衝撃もなく、しなやかにこの場へと現れたもの。
然り、それは――
『……』
――女神によく似た顔をした、本体がそこにいた――




