203話【銀色と魔法】[side:33]
雷光が今まさに直撃しようとした瞬間――それを、遮る者たちがいた!
『{与うるものは唯々一つ、無限に等しき安らぎよ}
{流る砂さえ動きを止める、小さな小さな氷世界}
――遍く等しく零と化せ!
散術式――【停滞】!!』
荒れ狂う紫電雷光の極みとさえいえる凄まじき雷轟は、ヘルの魔法を受け――静止!
進もうとも弾けようともせず、さながら時間が止まったかのように微動だにしない!
「――続きますッ!
{愛しい愛しい、あのひとは――
いつもどこかの旅の空――
さえずる鳥と、口ずさみ――
遥か彼方へ、進んでいくの}――
鳴術式――【さえずり鳥と放浪者】!!」
連携して、フルカが魔法を行使する。
凍結していた雷轟はふわふわとほつれていき――最早力無き何かと成り果て、霧散していく!
[Å なんですって!!?]
唖然とした表情で硬直する、[17号]と呼ばれた機人。
――あまり戦闘慣れしていないのか、あるいは――
「そこですよ~っ!
[水鱗蛇の濁石]――ありったけです!」
[Å しまっ――]
パレサの二丁短銃剣から、魔法の弾丸――着弾箇所を凍結させる、氷の弾丸が乱れ飛ぶ!
撃てば更に、どこからか装填済みの銃剣を取り出しては――射撃! 射撃! 射撃!!
正に雨霰と降り注いだ氷弾の威力は絶大!
敵機は既に微動だにせず、完全な凍結状態!
「それじゃあ――おねがい、ね?」
「任せな――〓-〓_〓-〓ッ!」
――追撃!
セタの影生物にルゥの緑糸を載せて――制御奪取の構えか!
[Å ・ ・ ・ ・ ・ ]
最早動けぬ敵機は成すすべもなく――その緑糸を、機体内部に受け入れる――
「……あれ?」
[ どうしました、ルゥ? ]
「おくの、ほうまで――はいれ、ない?
あたまのさきは――むり、だめそう」
――ルゥが侵入できない領域が?
何らかのセキュリティ……女神の、細工だろうか?
頭部の機能を奪取できないのであれば――どうすればいい?
――決まっている。
[ ルゥ、[頭部]の[分離射出]を。
それで少なくとも――拘束、できるはずです。 ]
「――へえ。
それなら、できそう、かも」
徐々に力を失いつつある氷の魔法の力の中、敵機体は少しずつ動き出す。
ゆっくりと頭部を下に向けると――軽い音を立てて、敵機の頭部が射出された。
床に落ちた頭部は、二つ結びの長い髪がひどく絡まり、オレンジ色のなんだかよくわからないもじゃもじゃと成り果てた敵機は、暫く経つと再起動した。
[Å ――え!? あれ、なんで、アイナは――]
[ おはようございます、[17号]さん。 ]
[Å ッ!?]
髪の付け根を両手で掴み、互いに視線が合う位置まで持ち上げる。
一房だけ黒いギザギザした髪が目にかかり、少し表情機能を観測しづらい。
「Å ……アンタ。
33号じゃないでしょ、誰なのよアンタ!」
[ 肯定、一時的に機体を借りています。 ]
少し離れた位置で、ルゥが{これ、どうするの?}と首のない機体を指差す。
本体に似たレオタード状の装甲繊維、こうして見れば一見なにも着ていないようにも見えるのが不思議だ。……全く。
さしあたり{再接続を試みられないよう、可能な限り離れた位置へ}と通信しておいた。
[ まず最初に――あなたたちは、何者ですか? ]
[Å ……。
ミミーを権限奪取したわけ?
――本体はどこよ、ブチ壊して資材にしてやる!]
どうやらこの敵機にとって、当機は特別なものらしい。
厄介、そう言えるだろうか。
……本体の、居場所。
そんなもの、こちらが聞きたいぐらいなのだが――
[ 質問しているのはこちらです。
答える気はありますか? ]
[Å いやよ!
機能停止しても答えない!
ミミーの機体を返せ!!!]
[ ならば、力ずくで奪うまでです。 ]
間髪を入れず、右腕を構成する鉄血を【残骸情報収集機】へと変形させる。
触手めいたコードをうねうねと動かし、いかにも威圧感たっぷりに脅かしてみせる。
[Å な、なにを――まさかアンタ、それであたしの電子頭脳を――]
[ ――答える必要が、あるとでも? ]
[Å わ、わかったわ、言う、喋る!!
あたし達はこの研究所の[保持管理]を司る[人造機人]の――]
――どうやら、いいのは威勢ばかりらしい。
話が早いのは良いことだ。
しかし、どうにも気になる単語が――
[ ――!? ]
射撃――いや、熱光線!?
ボクを狙ったものではない――ならば対象は!?
[Å ヒッ!?]
[ 急速解凍収束――名付けて、【流銀】! ]
流動する銀の球体が展開され――熱光線を遮断する!
その攻撃起点は――然り! 大眼球!
[∴ ――はずしたか。
やはり無理があったが……だが、やれるだけのことはしたとも]
[ ――口封じを?
随分と不確実な手のようですが。 ]
[∴ そうだとも33号。こんな観測性能で当たるはずもないのさ。
だが――こういうことなら、できる]
[ なっ!? ]
急激な熱量上昇――大眼球は次第に、赤熱していく!
[ ――"自爆"かッ! ]
[∵ まあそんなものなのだよ33号。
――いや、たぶんもう33号ではないのだろう。見知らぬきみ]
――どう止める?
機体を構成する鉄血量だけでは不足だ――破壊も、密閉も、防御もままならない!
使えるものは――流銀のみ。
マニュアル通りのカタログスペックなら、あのサイズの大熱源でも辛うじて機体の維持は可能なはず――
「――メガリス!」
[ ヘル!? ]
「その銀色の球体――薄く伸ばせるか!?」
[ ――!
可能です! 包みますか、塞ぎますか? ]
「包め! こちらの方だ!
大眼球を包んでも、おそらくは抑え込めん!」
「命令承認!
【流銀】――【半月】!!」
ボクら全員を包み込むように、薄く伸ばした流銀をドーム状に展開していく。
同時に、ヘルは集中し、詠唱し――魔法を、行使する。
「散術式――【物体の保護】^X!
――【恒 久 不 変 の理】!!」
――ヘルの魔法と、同時に。
大火球と化した大眼球は。
崩れる己が身と共に――灼熱の炎を、解き放った――




