19話【身に纏う】
……ボクは、部屋の鏡の前にいる。
あの後、ヘルとフルカに弄ばれて。
ボクの姿は、だいぶ派手に弄られてしまった。
……機械でも、涙は出るんだな……。
それはそれとして。
大きな鏡に、目を向ける。
そこには――
・ふわりとした質感の、白い短外套。
・肩の開いた、藍色の、夜会服風の上下揃洋袴。
・真新しい、明るい色をした、革製の編み長靴。
・長い髪は、絹のような質感の細い織紐飾りに括られ、
細く高めの二つ結びのような髪型となった。
――そんな格好をした、[素敵な]の、[美少女]が立っていた。
『…………』
これが自分じゃなかったら、即座に慕情を抱いていたに違いないだろう。
ボクは、そんなどうしようもない言葉を飲み込んだ。
『……自己陶酔以外の、何だというのか……』
代わりに吐き出されたのは、深い溜め息と、自嘲の言葉。
いっそこの可愛らしい姿を楽しめれば良いのだろうが、開き直るにはもう少し時間が必要なところだろう。
『……腕だけは、自由を保てました……』
袖のない服。それだけは、ボクが望んだものだ。
なにせボクの切り札の一つである【腕に抱く造兵工廠】は、腕部から展開されるものなのだ。
そこだけは流石に譲る訳にはいかない。
それに、貰い物の服を傷つけるのも好ましくない。
背中部分が開いているというのは少し気にはなるが……それも、案外役に立つかもしれない。
――どうやら、後背部に兵装を増設することが可能らしいのだ。
電子解説書を見る限り、噴進機、義手増設、滑空刀など。
対応している武装はそれなりに多いようだ。
尤も、それがどこにあるモノなのかは定かではないのだが……。
例えば、同時代の遺跡であれば――
ボクが生まれたあの遺跡……もう少し、探索しておくべきだったのではないだろうか?
あとで、ヘルに聞いてみようか。
まだ、そこまで遠くに来てはいないだろう……。
いざとなれば、造兵廠でそれらを再現することも可能だろう。
ただ、攻性兵器と同時に展開することで、どの程度負荷が生じるのか――
そういった不安要素が無いわけではない。
検証し、確かめて見る必要がある、か。
……ああ、そういえば。
少しばかり、いい結果もある。
『……女神の姿から、少し遠のいたのは……良しとしましょう』
そう――女神は神話に出てくるような緩外衣を身に纏い。
冠もつけずに、腰まである長い髪を靡かせていた――
外見とは即ち、多数の要素の集合体なのだ。
色合い、質感、組み合わせ……それらの些細な違いによって、総体なる外見の印象は大きく異なる。
ある意味で、女神の生き写しという状態からは、逃れることができたのだろうか?
『……だからといって、許しませんよ。
女神め……そもそも――』
そうだ。何もかもは、機体をとびきりキュートに作ったあの女神が悪い。
必ず――絶対に、探し出して――見つけ出して……。
女神を、殴り倒してやる――!
……などと。
あふれる衝動を燃え上がらせていると。
......[反響要求]......[探信波形]......[ネズミの小包]......
電子頭脳の中に響く、ピィンという甲高い音。
……否。これは、音ではない。
何者かが、交信を試みているのだ。
恐らくは、電子頭脳に、直接。
可能性として最も大きいのは、機械からの、何らかの言伝。
そして、今現在。最も近くに居る機械といえば――考えるまでもない。
『――[反響応答]』
ボクは、返答を打った。
この機械の、機能通りに。




