200話【奈落に虹を】[side:33]
「――〓〓_〓〓!」
「……きえた、とおもう」
セタの影生物が[正体不明の敵]を撃ち抜き――どうやら、撃退したらしい。
[ 【魔物】、ですか? ]
「わからん。
さっきみたいな石人形じゃあなかったがねぇ」
――正体不明。おそらくは、敵性体。
単独ということは考えづらいだろう。
或いは、既に――潮時、か?
「どうする? メガリスさん。
このあたりで、いい?」
[ ――ヘル? ]
「もう少し、だ。
今の時間から見る距離だと、パレサに撃たせたのとそう変わらないだろう」
「ふうん。
わかった、ヘルさん」
幾許かの静寂――その間も。
緑糸と金粉の弾丸は、進み――
「――あれ?」
[ どうしました、ルゥ? ]
「……いわかん。
もうすこしさきに――なにか、ある――ような。
でも、なにか――うん、なにも、ないかも?」
――違和感。
何かが存在するようで、存在しない、奇妙な感覚。
……あるいは、虚空――ないしは、それ由来の存在だろうか。
一応、安全策を取る必要があるかもしれない。
「 では、其処までです。
――着弾を。 ]
「うん、メガリスさん。
――いくよ」
弾丸の準備は整った、ならばこちらは――
[ ――ヘル! ]
「――ああ!
任せろ、メガリス!」
ヘルは粉末を握る手を額に当て、詠唱を始める。
「{"彼方に在りて此方に在り 此方に在りて彼方に在り
其は遥けき遠きに在りて 足下の近きに在るものなり
万里にして零里 故に我らに間隙無し 遠きも近きも同じ事
道なき道は開かれた 潜りて抜けよ 須臾の回廊――"}!
散術式 【境界渡り】――!」
振りまかれた金色の粉末を媒介として、ヘルの魔法が出力される。
内包世界の発露、体外世界への干渉。魔法と呼ぶべき――法則の書き換え。
――即ち、門。
――即ち、道。
然り、其れは――空間同士を繋ぐもの。
此処とは違う何処かの場所へと、繋ぐゲートが開かれる――
[ ――行きましょう! ]
セタとルゥが先行し、ボクとパレサ達が続く。
全員が通ったのを確認し、ヘルが最後に金霧の中へと入る。
金の霧の中。空間と空間の狭間。
辿り着くまでの、ほんの僅か通り道。
――微かに見える、転移先。
金の煙に撒かれて見えず、行く果ては闇霧に等しく。
――嗚呼、さてはて。
黄金色の霧の先に、見えざるものは何処か――
[ ――ここは? ]
周囲を見渡す。
――あまり広くはない部屋のようだ。
というより、半分程度が大閃電で撃ち抜かれた中部屋――といったところだろうか。
貫通孔の反対側に、元は同じ部屋であったであろう空間が見える。
下を覗けば、まだまだ幾らか先があり。
瓦礫に埋もれた穴の底、貫いた大閃電の終着点が見える位置にあった。
「前回の探求行だと、通らなかった部屋みたいですね」
「そうだな、フルカ。
というか寧ろ――隠し部屋、その可能性もある」
――隠し部屋。もしそうだとしたら。
そう、隠したいもの。それが存在するはず。
隠されたものは――何だ?
「アタシにはわからんねェ、アンタの違和感ってのが」
「ううん……えっと。
なにか――いる? ような。
ある? ような――すこし、へんなかんじ、かも」
少し減った影生物をくるくる回しながら、セタはルゥと話をしている。
ルゥは先程からずっと、この部屋に違和感を感じているらしい。
――違和感、か。
実のところ、ボクも一箇所――何故か、気になる箇所がある。
一見して、何もない――ただの、壁だ。
何の変哲もない壁、特にセンサ類が反応するわけでもなく。
だが、それでも。
ボクは、その壁に――"何か"が、"刺さっている"ような気がしたのだ。
[ ……。 ]
その"何か"に導かれるかのように、ボクは思わず手を伸ばし――
[ ――ッ! ]
紛れもなく、何か――ひどく節くれ立った、棒状の何かを、握っていた。
ゆっくりと、少しだけ力を込める。
"刺さっていた"ものは、抜ける気配がない。
――ならば。
もう少し、もう少しずつ――ゆっくりと、万力じみた力を込めて――
――[棒状の何か]を、壁の中から引き抜いた――
[ ッ!?
これは――! ]
見えざる何かであった筈の棒は、今や容易く目視可能な金属錐へと変質していて。
――そして。ボクは、ボクらは――コレを知っている――!
[ ――【識たる楔】!
まさか――何故!? ]
掌の中の、捻じれ歪んだ奇妙な物体。
それはただ、静かに。7つの色に煌めいていた――




