198話【亡失】
{防衛失敗}
{【大伽藍】への侵入者通過}
{機能崩壊→自壊の不可}
{報告先}――
――{主任}
『――！』
大地の巫女――いや、[同名の別人]か？
もし同一人物である場合――いや、どちらにせよ考えるべきは[役職]……主任、とは？
企画を預かる者――例えば、研究主任、警備主任、管理主任――
――護警が報告を送る相手とすれば、警備主任だろうか。
……この施設が、何らかの研究施設である可能性は高い。
であれば、研究主任かつ管理主任である可能性も――併せて、高まる事となる。
女神の顔をした仮面の女――
――それが、リーリトゥスだと考えるのが妥当だろうか。
仮面の女は――遺跡下層に、いるのか？
[虚空へと消えていった]、そいつが？
……構わない、どちらでも。
女神に繋がるのなら儲けものだろうし、そうでなければ単なる利害関係だ。
敵対者であれば、穿つ。
非敵対者なら、闘争の必要もない。
――ああ、ボクは。
一体、何を望んでいる？
「……なあ、メガリス」
『なんですか、セタ』
傍らのセタが問いかける。
指差す方は、[単眼石獣暴発跡]。
それは随分と深く――恐らくは、下の階層まで届いていることだろう。
……暴発した紫電雷轟は、どうやら余程の威力で下方向をブち抜いたらしい。
やはり、紫電雷轟は危険な砲撃だった。
[自爆導線]ではなく、手持ちの手段では――防ぎきれただろうか？
炸裂装甲――おそらく不可能。そもそも物理的な攻撃の為の防御装置だ。
鏡面装甲――わからない。基本的には耐熱・対精神干渉の為に用いた材質。有効であるかどうか、定かではない。
……防御の手段を、考えておくべきだろう。
例えば、楔を防衛機構に転化した――
「――ところで、[この穴]はどうすんだい？」
『どうやら――下の方まで突き抜けているようですね』
穴――正に大穴と呼ぶべき歪な楕円の貫通孔。
迂闊に足を踏み外せば容易に堕ち砕け死すこと明々白々たる地獄の底への一方通行。
――だが、当機は飛翔可能だ。
『――ヘル。
目的地は、下方ですよね？』
「そうだ、メガリス。
まだ幾つか階層を下る必要があるが――
……まさか、その大穴から行くつもりか？」
『肯定、ヘル。
単独で飛翔し、[ヘルの【境界渡り】]の仕込みをしてきます』
ヘルはゆっくりと息を吐き出すと、己の額に手を触れ微笑んでみせた。
「――もはや止めまい。お前のことだからな。
だが、いいなメガリス――必ず生きて帰れ。それだけは忘れるな」
『肯定、ヘル――[命令受諾]』
既に常備している対虚空飛翔翼を広げ、下方へと飛翔する。
縦穴を下れ、堕ちてゆけ、奈落へと至る、大口を開けて待ち受けよ――
――深く、深く――また深く。
水底に似た{息苦しさ}を負いながら、底へと飛翔する――
「……なぁ」
［ はい、セタ？ ］
「……[鹵獲機]も、メガリスでいいんだよな？
アンタは行かないのかい？」
［ [33号]は、[飛翔能力：なし]ので。 ］
電子頭脳内の手引書によれば、補助機体での飛翔機能は存在するようだが――
――残念ながら、補助機体は此処にはない。
鉄血で作成すれば、恐らくは飛翔可能となるだろうが。
そもそも33号で――機体性能の劣る33号で、[詳細不明]に挑むのは危険だ。庇いきれない可能性さえある。
――だからこそ、当機単独で飛翔しているのだが。
しかし、それにしても――
この縦穴は、どこまで続いて――
『――ッ！？』
なんだ、これは。
これは――〓〓……違う！ ならば、目の前にあるものは何だ――
『――ぁ』
／／／／／／／／／／／／／／／／／／／／／＼／／／／／／／／／／／／／／／
／／／／／＼／／＼／／／／／／／／／／／／／＼／／／／／／／／／／／／／／
／／／／／／／／／／／／／／／／／／／／／／／＼／／／／／／／／／／／／／
／＼／／／／／／／／／／／／／／／／／／／／／／／／＼／／／／／／／／／／
／／／／／／／／／／／／／／／／／＼／／／／／／／／／＼／／／／／／／／／
／／／／／／／／／／＼／／／／／／／＼／／／／／＼＼／／＼／／／／／／＼／
／／／／／／／／＼／／／／／／／／／／／＼／／／／／／／／／／／／／／／／
／／／／／／／／／／／／／／／／／／／／＼／／／／／＼／／／／／／／／＼／
／／／／／／／／／／／／／／／／／／／／／＼／／／／／／／／／／／／／／／
／／／／／／／／／／／／＼＼＼＼／／／／／／＼／／／／／＼／／／／／／＼／
＼／／／／／／＼／／／／／／／／／／／／／／／＼／／／／／／／／／／／／／
／＼／／／／／／＼／／／／／／／／／／／／／／／＼／／／／／／／／／／／／
／／＼／／／／＼／／／／／／／／／／／／／／／／／＼／／／／／／／／／／／
得体の知れない〓〓に飲まれ。
あり得べからず意識途絶を吐き下しては。
巡る混沌の意思。
狂々、狂々、空転。
辿り着いた場所。
辿り着こうとした場所は。
交わる線もばらばらに。
そうではないモノへと成り果てた。
〓〓
〓〓、〓〓〓〓〓〓〓〓。
［ ――！
……！？！ ］
気づかぬうちに床に倒れていたボクは、あった筈のものが存在しないことに気づく。
急いで体を起こし、何度も何度も呼びかける。
――反応はない。
そう、反応がないのだ。
どれほど電信を投げようと、送信は失敗し返答すら期待できない。
［ ……ありえない。 ］
そうと言うことしか出来やしない、正真正銘の異常事態。
［ ――消えた。
いない――。 ］
そんな筈はない、そんな筈はない。
狂ったように己に言い聞かせながら、思わず口にした言葉は――
［ ボクは――何処だ？ ］
――あまりにも滑稽な、ひどく馬鹿げた代物だった――
