196話【かいまみるもの】
こじ開けた、その扉の先は――
清潔さ、それさえも通り越して――
――神々しさ。
それさえも感じさせる空間だった――
『これは――』
――円形中規模広間。
だが、その中央には――階段状の四角推。
されど、最上段に捧げられるものは何もなく――まるで、何かを待ち続けているかのように見えた。
――墓所、寺院、礼拝堂――
そんな言葉が脳裏を過る、ある種の神々しさを感じさせる空間だった。
――しかし。
『ヘル。
この奇妙な石像の群れは、何なのでしょうか?』
「――ああ。それはな、メガリス。
恐らくは――単なる石像だ。
少なくとも前回は、仕掛けも罠も何一つなかったよ」
四角推には、その段の一つ一つに、歪な人型をした石人形がずらりと並んでいる。
――ふむ。
球状に近い胴体に、虫の羽根のようなものがあしらわれた、歪な人型をした石像。
全体の印象としては、蝿に似ていると言えなくもないが――
『――警護機体、その可能性は?』
「……確かなことは言えないな。
それがただの人形なのか、魔法石獣なのか、あるいは意志ある機人なのか――
――どちらにせよ、先を急いだほうがいい。少なくとも、前回は即行した」
{時限式の罠である可能性も捨てきれない}と続けると、ヘルは祭壇を迂回して反対側の出口へと向かった。
[ ――妙、ですね。 ]
然り――妙、だ。
33号の記録には、この場所は[歓談所]――要はただの、"休憩所"程度の情報しか記録されていなかった。
情報の断片化はおおよそ見られず、欠損部位はほんの僅かだ。
現時点では、案内図として[信頼できる]と評してもいい情報だ
――ならば。
[祭壇/石像]は、何だ。
単純に"休憩所"に配された、何らかの宗教的象徴――そう考えることもできる。
{安息}を求むるべき休憩所に、信仰対象があることは何ら不思議なことではない。
――だが。だとすれば。
この言いようのない不気味さは、何だ?
あまりにも、休憩所には似わない。
樋嘴や鬼瓦のような、怪物的魔除け?
――とてもそうは思えない。
いつ配置されたかは重要ではない。
どう設置されたのかも重要ではない。
――そう。
これは、何だ?
何故、ここにある?
『――いや』
視点の変更――それが必要か。
そう――あるいは。
ここは、〓〓の[休憩所]だ?
「――っ!」
扉に手をかけようとしていたヘルが、不意に振り返る。
視線の先は――然り、祭壇!
『あれは――』
何もなかったはずの祭壇上に集中光めいた光の柱が立ち、祭壇自体も力強く光を放ち始める!
発光と同期するかのように、部屋全体――いや階層そのものが揺れ動き震え軋む!
がたがたと踊り狂うように石像が床に転がり、互いに打ち付けあい罅割れ砕け散り果てる――
砕けた石像からは、聊か燻んだ光が立ち上ってはまごまごと瞬き消える。
――やがて。
震動が、収まったとき。
土煙を巻き上げ、眼前に現れたのは――
巨大な単眼を真開き睥睨する、正双角錐の異形だった――




