194話【銀の繰り糸】
「――! おい、メガリス……?」
記憶の読み込みが、終わる。
意識が、螺旋階段へと回帰する。
[ ――大丈夫です、ヘル。 ]
「なっ!?」
自身の声は、[33号]から発せられる。
――当然、ただの小細工だ。
『単純な話――』
[ 残骸を、分身にした。 ]
『ただ、それだけです』[ 問題は、ありません。 ]
折角なので、言葉を切り、交互に話してみる。
ヘルは当機と33号の顔を交互にみて、少し{困惑}している。
「――そうか。ならば、良い。
それで、メガリス――何を見てきた?」
[ ――人物を。それも―― ]
『[女神の顔]をした、奇妙な人物を』
「!」
やや離れていたセタが近づき、少し表情を変える。
「……眷属神かい?」
『否定、セタ。
[現時点では不明]。
――加えて、もう一つ』
「それは何だ、メガリス?」
『ヘル、フルカ。
貴女方が、当機を発見した時のことを覚えていますか?』
「勿論、だが――
――待て、まさか?」
[ ――肯定。
33号は、[当機発見時の状況]を目撃していました。
[女神の顔をした女]と、二人で。 ]
「!」
『知っていた、ということです――その人物は。
最初から、当機のことを。[それを解放した人物]のことを』
「――待て。
その人物はまさか、お前の探している女神様じゃ――」
『……[特定要因:無し]。
そうである可能性も、そうでない可能性もあります。
――そして』
[ 人物は言っていました。
33号の――{[求めている者]が、来る}と。 ]
「――占術や、予言術の言い回しだな。
ならばメガリス、[その機人]は誰を待っていた?」
[……具体的なことは、何一つ。
ただ、[あのお方]とだけ。
――ですが]
『当機の事を、[あのお方の写し身]だと』
「なら、つまり――」
『肯定。
――[あのお方なる人物]が、[女神本人]である可能性もあります』
「ならば、メガリス。
もし、[求める存在]が来るのなら――お前は、どうする?」
当機は、攻撃的な笑みを浮かべて切り返す。
『――望むところです。
女神であれば、良し。
そうでなくとも、それに繋がる情報は得られるはずです』
――そうだ。
今までと――何一つ、変わりない。
「……そうか」
少し考え込むような仕草をしたヘル。
そしてまっすぐに当機を見つめると、言った。
「――それなら、いい。
先へ進むとしよう。
いいな、メガリス?」
『肯定、ヘル。
向かいましょう、次の階層へ――』
最下段からしばらく先、真正面には巨大な扉。
暫くそちらを見遣り、ヘルはこちらへ振り向いた。
「――ところで。
その機体はどうするつもりだ?
道案内に使うとしても――頭部だけでは邪魔になるだろう」
『――当然、考えがあります』
――然り。
当機には――両の腕がある!
『【腕に抱く造兵廠】!』
幸い、全身の情報は全て頭部に揃っている。
ならば――[複製難度:容易]!
『[項目指定]――[人威追走機Ver33.1]』
溢れ出す鉄血、[33号頭部]を包み込むように流れ染み溶け、ゆるやかにその形を変えていく。
産み落とされる形状は、先に相対したものと相違なく。
在るべき形、在るべき姿へと――構築されていった。
[ ――こんなところでしょうか。 ]
並列する操作に不自由はなく、むしろ心地よささえ感じられた。
当機より少し高い視点、長い手足の均衡。
だがそれでいて馴染む、自由な機体。
――むしろ。
無に等しい違和。
かつてそうした事があったかのような、容易さ。
『――行きましょう』
逆張りの迷妄を、振り払い。
鹵獲せし兵器ひとつ抱え、また一つ階層を下る――




