191話【セキュリティ】
――これは。
『――[進行不能]……?』
階層を覆う回廊をひと回りするも、下層へ向かう階段らしきものは見当たらない。
あるいは昇降機めいた設備が存在しているのだろうか――?
「いいや、メガリス。
この先は隠し部屋になっていてな。
――ほら、そこだ」
と、ヘルはただの壁を指差す。
――いや、これは――
「――気づいたか、メガリス。
仕掛け扉だ」
『起動点の類は、何処に?』
「そこだな。
――ほら」
そう言って、ヘルは随分高い天井を指差す。
『――飛翔します』
「いや、良い手がある。
――フルカ!」
「はいっ!
――発射!」
フルカの銃剣が、天井の起動点を打ち抜き――障害物が、通行可能へと変わる。
得意げなフルカは傍らのパレサと上げ手合わせする。
{流石です先輩}{でもパレサちゃんの方が上手いんだよなぁ}{いえわたくしそんな}――のような事を話している。
開いた扉の億は――階段。
規律正しく回旋する、螺旋状の階段だった――
「降りるぞ。この先だ」
『応答、ヘル。
――[最下層まで飛翔]しますか?』
「……今は駄目だ。
先程の[魔物出現]のこともある。
慎重に、進む。いいか、メガリス?」
『了承、ヘル。
――行きましょう』
理路整然と乱れ無く、遺伝子に似た螺旋を下る。
中央に支柱はなく、地の底へと繋がる縦穴が仄かに空気を運ぶ。
――空気。
ならば、その先には――空気の流れが存在するということだ。
外にでも繋がっているのか、あるいは――
……[虚空/それ以外の何か]――?
「っ!? えーと……あれー?」
「どうしました、パレサちゃん?」
中央側を固める侍従が騒ぎ出す。
――何か、見つけたのだろうか。
「いま、下の方に――
――人型の影が、見えまして」
「人影……?
見間違いじゃなくて、ですか?」
「このくらいの距離なら間違えませんよー。
確かに[一面二臂二足]の[正体不明物体]です。
ええっと、[銃剣照準器の記録]は――
ああっ、この銃には[記録機能:無]みたいです」
――人型? まさか――
女神――眷属神――或いは。
――同型機。
「――わかった。まずは索敵を――
いや、最精鋭狙撃手が見たなら人型実体は存在する。
そう考えたほうがいいだろう。迂闊に近づくのは危険だが――」
『――奇襲を行います』
「――いや。
相手が[こちらより奥の位置]に居る以上、何か仕掛けていないとも限らない。
ここが相手の拠点であれば尚更だ。[敵方有利下での奇襲]は、成立しない」
「影生物なら、どうだい?」
「おそらくは有効だが――情報は、持ち帰れるか?」
「……あんまりそう言うのは得意じゃないんだよねェ、アタシは」
――それなら。
『――分身体を射出し、回収します。
威力偵察の形になりますが、目的は果たせます』
「……それなら。
だが、いいのかメガリス。
もしかすると相手は――」
――同型機の可能性。
やはり、ヘルもそこに行き着いたか。
『――いいえ、問題ありません。
仮に同型機であれば――[識別可能]です』
味方識別機能――当然、自律する兵器であれば、あって然るべき機能。
同型機を、そうと知らずに破壊することはあるまい――
「――そうか。
ならばメガリス、分身体による威力偵察を――」
ヘルが、命令を下す。
瞬間――まさに、その瞬間だった。
『ッ!?』
「!!?」
「――?」
――通信!!
[送信者不明]...
――最下層の人型実体!
_.._....__.___.._.__
簡潔に、明瞭に、送りつけられた言葉は――即ち、警告!
{立入禁止区域}
{退去要求}
{仮定:拒否}
→{行使:強制力}
『ッ!!』
「メガリス!?」
『――敵です、ヘル!
[最下層の人型実体]は、[防衛機構]です!!』
「……そうか!
ならば、威力偵察は止めだ――
――[探求行の障害]を、撃滅せよ!」
『[命令承認]!』
飛翔、射出、詠唱、精神統一、疾駆。
戦闘準備は慌ただしく、瞬く間に[最下層]へと至る――




