190話【研究所】
『……これは――』
長い洞穴を下に進み、待っていたのは――開閉扉。
怪力を込めて、こじ開けて。待っていたものは――
「わぁ……[施設]、みたい。
なつかしい……のかなぁ」
古び剥がれ傷つき、されどかつては純白出会ったはずの壁。
妙にツルツルとしていて、石とも木ともつかない材質の床。
吹き抜けの階段、閉じた幾つもの部屋、名を示す札の入れ物。
それらは、今やその姿をホコリに穢されようとも――かつて、清潔であった筈の場所。
『――研究施設……!』
或いは、病院、療養所――少なくとも、清潔であるべき場所だ。
「よく分からんが――
此処に来たかったのかい、相棒?」
『肯定、セタ。
当機の過去を知りたいのです』
「――つまり、女神の所業を?」
『肯定――
恐らく、何かがある筈です』
「知恵者がそう言うんなら、そうなんだろうねぇ。
どうせならそろそろ、女神本人と交戦したいところだね」
『同感――』
――などと、話しているうちに。
周囲の索敵が、完了したようだ。
「報告しますっ! 少なくとも、この階層には虚空孔は無いみたいですっ!」
「魔物自体も、今は[範囲内不在]みたいです。
ヘレノアールさまー、メガリスさまー、いかがいたしましょう?」
フルカとパレサが、斥候から戻ってきた。
とはいえボクらの目の届く範囲から、フルカは鳴術で、パレサは探知機で走査しただけなのだが。
……当機の機能であれば、より正確な情報が得られるのではないか?
いや――必ずしもそうではない、か。
少なくとも当機の記録領域にある探査器具は、対物質を前提としている。
つまり、虚空前時代の情報故に――虚空、そのものを探知できるかどうか、定かではない。
――当然。
幾度の虚空突入経験を得た今のボクなら、虚空を前提とした探知機を創り出すことは可能だろう。
探知機がどれ程の精度になるか――試してみなければ、わからないのだ。
ならば信頼度のある、現行技術を活用することは、それほど悪いことではないだろう。
――それとも、ボクは。
ただ、仲間を信頼してみたいだけなのだろうか――?
「――よし。
お前達、準備はいいな?」
各々が{肯定}の意思を示す。
ヘルは、言葉を続けた。
「目的地は、最深部――仮名称だが、[水晶の揺り籠]!
前回の探索で、罠や仕掛けの類いは取り除いた筈だが――
それでも、未だ確認されざる脅威が存在したとしても不思議はない!
警戒は怠らず――進むぞ!」
――水晶の、揺り籠。
当機の安置されていた、球体のことだろうか。
思えば――あの球体は、何だったのだろうか?
ただ、機体を入れておくものとしては――
あまりにも、脆く、薄く、透明で――
――まるで、何かを飾っているかのようだった。
……まあいい。
確認すれば、済むことだ。
現物を再確認すれば、考察はより先へと進む。
――その筈だ。
――そうだろう?
規律正しくはない、幾つかの足音。
その一つを打ち鳴らしながら、また一つ階層を進む――




