182話【あさやけのひかり】
一面の、土の色。
聳え立ち今にも爆散せんとしていた巨骸は――既に、無い。
消滅したのだ、跡形もなく。
上方を見れば、鋼鉄の赤色巨竜。
巨翼を動かすこともなく、中空に静止している。
『――あれが。
恐らく、長兄の――』
――相棒の、機人。
次兄の、黒鳥のような。
そう考えるのが、自然と言えるだろう。
――しかし、それにしても。
あれほどの熱量を一瞬で――
いかなる方法を用いて、過量光熱源を消し去ったのだろうか。
――対消滅、冷却砲、位相転移、虚空利用――いろいろと考えられるか。
――可能であれば。
直接、話を聞いてみたいところだが――
『……?』
鉄竜が、じっとこちらを見ている……。
――何かあったのだろうか?
或いは、結合機体を敵対者とみなしたか。
鉄竜は、{何かに気づいた}かのように龍尾を揺らし。
そして突然、こちらの方へ急速接近し――変形を始めた。
『!?』
巨翼がたたまれ、竜尾が収納され、捻角だけはそのまま。
かしゃりかしゃりと、四肢が旧人類のような長さ配分になり――
――巨大な人形女性の形になった鉄竜は、ゆっくりと当機の前に降り立った。
そして鉄竜人は、当機に向けて通信を――
――否、ありのままの音声出力で、話しかけてきた。
[> ひょっとして、なのですがっ!
竜人機のお仲間さんですかっ!? <]
――ドラッヘン? 機体種別か何かだろうか?
まあいい、とにかく――話を、してみようか。
『……否定。
当機は、その単語を存じ上げません』
[> ええーっ!? だって、そんな大型の人型機体なのにっ!
……本当に竜人機じゃないのですか? <]
――大型で、人型の機体。
それがドラッヘンなる機体の特徴、なのだろうか?
『……失礼ですが、貴方は――』
「――それぐらいにしろ、イル。
勝利を得た戦士に、称賛以外を叫ぶものではない」
『!?』
鉄竜人の中から声がする。
――やはり、乗り物であるのだろうか。
となれば当然、中にいる人物は――
「相棒が失礼をした。
私は【アヴニール・ヴァイスレイン・エデルファイト】
弟から話は聞いている――機体の義妹よ」
――長兄!
ここからでは姿は確認できないが、どこか――不思議な、声質だ。
剣のような柔らかい声でも、幻影のような掴みどころのない高音域でもなく、強いて言うならば――お姉様や、子爵に近い――安心できる、声。
人型生物の声――なのだろうか?
[> あっ、自分は【イルファン=フーグヴァ】っていいますのです!
よろしくなので~す! <]
素っ頓狂な甲高い音声が集音機器を刺す。
――だが、不思議と不快な感覚はなく、良質な波長に感じる。
『アヴニールお兄様に、イルファン=フーグヴァ……
ボクはメガリスと申します。よろしくおねがいします』
結合機体を動かし、礼を示すような動きを取った。
――これで、合っているのだろうか……。
「――しかし、思ったより大きな形をしているのだな。
前に妹から聞いた時は、純人間と見紛う程の美形だと聞いていたが」
『結合機体は、当機の外部装甲です。
必要とあれば、分離解体回収しますが』
「……!」
相手からの反応――{困惑}?
特にそういうものではないと思うのだが……。
「――そうか。いや、よい。失礼した。
こちらの姿も見せていないのだからな」
[> わーわー、メガリスちゃんって大胆なのですっ。
でもそういうのは主人の前だけにした方がいいと思うよ? <]
――また、この手の反応か……。
ひょっとして、当機の言語機能には何かそういう仕掛けがあるのではなかろうか……?
『否定、中身はただの本体です。
なんら恥じるものではありません』
[> そっかぁ。うんうん、そういうこともあるのです。ねっ? <]
……おのれ。
女神め。
たとえ的外れであろうと、燃やした怨みには意味がある。意味があるはずなのだ。
「――さて。
ではそろそろ、報告に向かうとしようか」
『――どちらへ?』
「"謁見室"だ。
――父上が、目を覚まされたそうなのでな」
『!』
夜明け、朝焼け、暁の空。
ゆっくりと昇る緋色の太陽は、機体二つを静かに照らしていた――




