164話【きらりきらりとまたたくもの】
「――何処を見ている!」
瞑想、集中、思考の展開――
――脚部に――楔火が、触れる。
『――残念ながら、今は。
貴方など、眼中にありませんので』
切断、分離――失った両足を再作成する。
『……ッ』
残り僅かな残存鉄血量が――また、失われる。
――これほど、とは。
四方や、これほどまでに構築時間がかかるとは――
……そもそも。
鉄血、それ自体の量も不足している。
――回収。
それも、視野にいれるべきだろうか。
だが――
『く……!』
当然、その間も――敵は、待ってなどくれない。くれるはずもない。
演算に思考能力を持っていかれる以上、回避さえも十分に行えない。
並行処理を捨てて、一時保存し中断。
迎撃、反撃、何らかの拘束手段――から、隙を作り。再計算――
――そうする手も、ある。
だが、そうなれば当然。
勝利は遠のき――枯渇に依る敗北。即ち死に近づくことになる。
いっそ、本体部位の再生に回す鉄血さえも武器に回してしまうか――?
――最悪。
頭部と、片腕さえあればいい――
的が小さくなれば、当てづらくなるのは道理――
――ああ、全く。冗談にもならない。
当機は覚悟を決め、脚部の兵装化を解除しかけた時――
――戦場に、あらわれたものがあった。
『――!?』
それは、突如――
――虚空に現れた、金色の渦!
砂のように散らばる小さな粒子の集合体――
――それが小銀河めいて回旋し、妙に幾何学的な渦巻模様を描いている。
「フン……。
何だ……? 新手か?」
少なくとも、当機の性質じゃない。
穢焔にとっても[わからない]と認識しているように見える。
金渦は、こちらの敵なのか?それとも――
「――構わん。
[楔火→狙撃→金渦]」
透明化を解除した楔火の群れが、金渦を目掛けて疾駆する!
――どうなる?
『ッ!?』
渦を撃ち抜こうと前進する楔火は、渦の周囲の金粉に触れた途端――その方向を、変える!
着弾予想地点は――支離滅裂!!
穢焔にも向かわず、当機や機能停止空戦鏡にも向かわず、ただ虚空の中を無益に飛び駆け回る!
楔火すべてが視野の彼方に消え去った後――金渦は、周囲の金粉を集めだす!
――何らかの、装填――攻撃の?
『!』
直後、渦は金色の粉を尖鋭大氷塊に変え、穢焔の方角へ――
――途方もなく、大量に! 嵐の如く激烈に穢焔へと吹き付ける!
「――なんだと!?」
狼狽する穢焔。[予想外]に類する[反応]。
[あんなもの]が[こんなこと]をするとは[想像]できなかった、と。
――良い気味、ではあるが――
――好機! そうであることに変わりはない!
『――[部分吸引]!!』
分離放置されている周囲の鉄血――言うならば、残骸の兵装を回収していく。
嗚呼、攻撃への下準備を!
右方後方――下方左方前方――前方上方――[完全損壊による消滅]を免れた鉄血を、可能な限り回収していく。
[鉄血残量:極少量]...推移。
→[再計算]...
『あと、少し――』
先程の設計構成であれば、これだけの量を回収できれば――あるいは、作成可能かもしれない。
だが不安は残る。
対象物は――【楔】だ。
――本当に、出来るのか?
いや――
ならば少しでも、可能性を上げればいい。
もう少し、もう少しなのだ。
鉄量さえ充分であれば、創れない筈がないのだから。
『――?』
なんだ、これは――
――いや!
『!!』
それは、金色の渦の一部なのだろうか。
宛ら人のような形に渦巻いて、当機の正面に相対する。
形状の模倣――? 或いは、何らかの交感行為を……?
『――貴方、は――?』
思わず、発された言葉。
金人は頷くような仕草を示し、ゆっくりと[人の手の位置の部位]を伸ばす――
ボクは、どこか奇妙な[親近感]のようなものを感じ。
おもわず、その手を取っていた。
すると――
『!!?』
人形金渦はぱちんと弾け。
小さな渦となって、ボクの機体を包み込んだ――




