157話【まがいもの】
「■、〓〓――
■■な、〓〓は――!」
虚空、空間を。
畝る焔が、轟々と叫喚する。
『こんにちは、寄生虫。
――それとも。
穢焔、と呼ぶべきでしょうか』
跳ねる穢焔は気炎を吐きながら、爆ぜるように言葉を撒き散らす。
「■■、貴様が――
――【女神】でない筈の、貴様が!」
当機は本体をゆるりと動かし、穢焔の前に立つ。
『上等――少しは、分かっているようですね。
当機と女神を同一視しなかった事は、褒めてもいいでしょう』
「■をした――! 貴様、何故――
――[内包世界]に【虚空】があるのだ!」
『拒否、答える必要など有りはしません。
――お前の考える限りの、最悪でも想像していればいい』
此処は、虚空だ。
ただしそれは――当機の造兵廠に依るものだが。
先程破壊された機体は――外殻であって本体じゃあない。
ならば、本体そっくりの外殻の中に、何を仕込んでいたか?
――然り。
【虚空封印櫃】相当の――大規模虚空間!
そして、もう一つが――この、本体だ。
入れ子人形めいて[女神の似姿]を隠し、さらに造兵廠の鉄血にて対穢焔の対応策は十分――!
あとは――然り!
『――さて。
話をしましょうか、穢焔。
それとも――』
ボクは事前に仕込んでおいた【空戦鏡】を、あからさまに見せつける。
『一度、負けなければ――話すことすら、認められませんか?』
幾許か挑発気味に言ってのける。
どことなく{誇り高く}ありそうな性質を、ほんの少し擽る。
「――笑わせてくれる。
容姿が同一なら精神性も[女神と同質]になるのか?」
『不服、それは残念。
評価を改めるべきでしょうか』
挑発には――乗ってこないか。
加えて幾らか[落ち着きを取り戻す]したようにも思える。
――対話の目が、出てきたか?
いや、楽観論も希望論も捨てろ。
先手――先制攻撃か。
後手――対応迎撃か。
さぁ――どうする?
「――まあいい。
どちらにせよ――貴様とは一つ、話をしてみたかったのだ」
『――[意外]。
というか、そもそも――貴方は、当機を知っていたのですか?』
会話には、応じた――
――いや、まだ早い。何らかの詐術を用いることも出来るだろう。
常に行動を起こせるよう、身構えよ――
「知っていたさ。子爵の記憶、この娘の記憶。
そしてあの鉄砂海峡で[第二分霊体]を打ち消火してくれたのだからな。
――忘れるものかよ」
――つまり、キースメルリェに取り憑いていたのは、穢焔本体ではなく、分身体……そう考えていいのだろうか。
分身。
――ならば、この眼の前に居る穢焔が、本体である保証もないということになるか。
「だがおかげで得たものもある。
いや、見つけたというべきだろう」
穢焔はジッと嫌な香りの煙を吐き、ほんの微かに火勢を増した。
「このオレが求め続けて止まなかった力を、選りにも選って同類が持っていようとはな……!」
音を立て激しく燃え上がり、捩れ捻れて螺旋の炎嵐。
酷く軋んで撚れて戻り、その都度甲高く[鉄のぶつかり合う音]が鳴り響く。
『――!?
あれは――!!』
烈しく猛り燃え盛る劫火。
その眩く昏く光り影差す汚染された太陽。
その禍々しくに枝分かれした茨めいた火先に見え隠れする〓〓。
それは、槍のようであり。
剣のようであり、獣の爪牙のようでもあり。
ひどく捻じくれた、金属杖――あるいは。
柱のような、物体。
酷く煤けて黒ずみきった、
その、[残骸集合体]だった――




