150話【不在の地】
「――っ!!」
「なっ!?」
「そんな――」
「……?」
――此れ程、とは!
[人型敵性体:確認多数]
港に群がる、[兵士/武装侍従]の群れ――
――武器を構え、狙いを定め、討つべき誰かを待っている。
そして、[人間たち]は――見た。
赫い光を爛々と、降り立つ艦を凝視する!
――然り! 赤!!
瞳に宿る穢れた焔は、意思を奪われた者共の証!
合唱するかの如きけたたましき狂笑!
高く低く入り混じり、嘲り笑う混声合唱!
穢焔たる眷属神!
彼奴は既に――子爵領を、支配下に置いたとでもいうのか!?
『――【閃光発音筒】!』
爆音、閃光――夜闇を真白く塗り潰し、あらゆる雑音を置き去りにする。
――非殺傷の兵装――果たして、留め置けるか?
「〓-〓_〓-〓――〓-〓-〓!」
追撃、第二波、第二の矢――セタの影生物が粘性の流動体へと変異し、穢焔人の行動を妨げる!
「こっちですっ! 早くっ!」
フルカは飛び去る艦から投下された搭乗型浮揚機体らしきものに乗り込み、三機の同型機をボクらに示す。
「これに、のるの?」
「――まあ、やるしかないねェ」
――飛んだ方が早い。
そう考えられなくもないが――
{空中は危険だヨ、子爵様が相手だったら尚更ネー}
――などと、助言された以上。
『セタ、ルゥ――行きましょう!』
応えてやるのも、{信頼}というものだろう。
「うん!」
「仕様が無いねェ」
――状況判断。
港の守りは一般戦力のみ。
鉄砂海峡に於ける、流星拳や女王龍などは、配置されていない。
――ならば。
『城館へ――ですね、フルカ』
「はい!
誰かを囚えておける場所があるとすれば――お屋敷以外にありえません!」
――虜囚。
もし、そうであるならば。
囚えておく価値がある、ということ。
何らかの理由――例えば、交渉材料、何某かの鍵、情報の類。
在り得る事だ。敵方の情報が皆無である以上、それ以上の考察は無意味だろうが。
――そして。
虜囚ではない場合。
考えられる事態は、2つ。
――既に生命を奪われているか。
穢焔にとって――味方たりうる存在になった、か。
……。
祈る女神など居やしない。
願う流星など遥けき彼方。
――だが。
願わくば――どうか。
『ご無事で――ヘル』
思わず口にした一言。発さずには居られなかった言の葉。
されど決して届くこと無く、ただ内なる願いと燻る。
浮揚機体の噴気音が甲高く唸る。
徐々に迫りくる城館、二つ伸びる尖塔の影は不気味なほど鋭く。
上天には星々、何処か霞んだ黒空。
――昇り来る、月。
あまりにも、眩く。
十字に並んだ七色の月が、駆け行くボクらを見下ろしていた――




