14話【 大 破 砕 】
「かつて大地というものがあった。
――だが、今はない。それは砕かれ、失われたのだ」
ヘルは語り始めた。
世界がこうなるまでの――物語を。
「まず、始めに――というと語弊があるが。
とにかく、事の発端は、一つの戦乱があったことだ」
「それは、途方もない大戦乱であったという。
二つ別れた陣営は、互いにひどく傷付け合い、大地は血と炎に染め上げられた」
「――だが。
それは、唐突に終わった」
「理由は、至極単純なものだ」
「"両陣営が消滅"したのだ。
跡形も無く、完膚なきまでに」
「両陣営の中枢があった場所には、恐ろしく巨大な、二本の
ひどく捻れた円柱状の鉄塊が突き立てられていた」
「それは槍や剣であったとも、恐ろしき爪牙であったとも、
あるいは天地を繋ぐ梯子のようなものであったとも言われているが……
少なくとも、それが彼らを殲滅せしめたことだけは間違いない」
「そして、鉄塊には。
何者かのメッセージが記されていた」
「『〓〓〓〓〓〓』
『〓〓〓〓〓〓』
『〓〓〓〓 〓〓』
『!〓〓〓 〓〓〓i』
『-〓〓 〓-』」
「そいつは大胆にも"神"を名乗り、人間に啖呵を切ったのだ」
「そして、次の異変が起こる」
「大地に亀裂が生じた。
突き立てられた鉄塊を、その双つを中心として」
「石に鑿を当てるように、飛矢が肩骨を射抜くように
鉄塊は大地に叩き込まれ、全ての崩壊を招き寄せた」
「そうして大地は軋み、歪み、捻くれては千切れ、
何もない宙空に四散していった」
「散り散りになった大地は、もはや大いなる地平などではなく。
ただの小さく小規模な、ひとつの場所と成り果てる」
「斯くして人々は、砕かれた世界の欠片の上で、
各々が細々と生きることを強いられ――」
「――そして、それすら許されなかった」
「何もない宙空には、【魔物】がいた。」
「他の表記として【妖魔】【怪異】【化生】……
彼奴らの自称に合わせて、【異郷の神々】と呼ぶものも居る」
「先刻屠った長蟲も、その一種だ」
「奴らは非常に好戦的だ。特に人間に対しては。
世界の隙間に潜み、獲物を狙う。執拗極まりない襲撃者」
「それが【魔物】だ、人間の敵だ。
凡そ人間と呼ばれる生き物は、そうして生きてきた」
「――そんなところか。
何か質問はあるか、メガリス?」
ヘルは少し語り疲れた様子で、ボクに問いを投げかけた。




