144話【空に、歌う】
「{遠い、遠い、遠い空――深い、深い、深い空――
昏い、昏い、昏い空――碧い、碧い、碧い空――
どこまでも、どこまでも、どこまでも昏く深く――
いつまでも、いつまでも、いつまでも遠く碧く――
誰も知らない空の底。キミはずっと、其処にいる――}
――拡張・鳴術式っ!【されど君は独り哭く】!!!」
何処からともなく聞こえる――歌声!
響き渡る声、高らかに奏でる音。
――そう。
当機はその主砲を、記録閲覧している――
「まさか――あれは、妹の艦の術式砲!」
『以前、映像記録閲覧済みです――これ程とは』
――ある程度は、視ることができた。
そこから幾許かを――想像、することは可能だろう。
おそらくは――
――主砲から空気の層を直線放射し、[音の通り道]を作り出す。
即ち、この虚空であっても[音を媒介とする術式]を使用可能とする【兵器】――
先程聞こえた声から察するに、魔法の弾薬ではなく何者かの鳴術式なのだろう。
いや、それ以外にも――
――可能性として、音声再生装置……可能なのだろうか?
媒介と鳴る音声と何らかの[魔力とやらの源]があれば、[魔法を封じた弾薬]に出来るのだろうか。
――まあいい、聞いてみるとしよう。
丁度よく――[人形遊びの好きなあの娘]は、近づいているのだから。
[# 敵兵全機行動不能、である。
我々の勝利である、と見るが―― ]
「――そうだね、バーバトゥルス。
だけれど――要救出者は、[未救出状態]だよ」
[# 尤もである、主よ。
[応答確認:潜空艦]――む? ]
『どうしたのですか、黒鳥』
[# 雑音過多である。
敵機の電波妨害が未だ有効状態と推察されるが。 ]
「それでも、何か聞き取れないかい?」
『[情報共有]――断片的ですが、幾つか[聞き取れる単語]があるようです』
[# 然り、同胞。
[被:通信妨害][航行:不可][希望:通常空間脱出]
――大きく分けて、その三種に集約するのである。 ]
「自力で虚空から脱出できない、そう考えるのが妥当だろうね。
バーバトゥルス、牽引索を」
[# 承ったのである、主よ。
……いや、この場合は――外装担当、頼むのである。 ]
――当機が鉄血にて再現した潜航艤装なる黒鳥の追加装備は、今のところ当機の支配下にある。
牽引用の縄は、図面通り潜航艤装側に収納されている。
射出機構も、問題なく機能するはずだ。
『了解、お兄様、黒鳥。
【牽引索】――射出、展開!』
{了承}と{牽引し離脱する}の通信を多角射出し、脚部装甲に格納された複数本の牽引索を展開する。
――命中、と言った所だろうか。
艦体の数カ所、十分な安定が見込まれる位置に牽引索が固定される。
[# 見事、である。 ]
「流石だね、我らが義妹」
『――指示書通り、ですので』
実の所、射撃武器に関する[情報資料]はあまり多く保有していない。
造兵廠に銃や砲などの原型が存在しないわけではないが、当機の射撃管制機能が、現状不足しているのだ。
それが意図的な欠落なのか、単なる未完成なのか。
何か細工が為されているのか――この際、理由は重要ではないか。
とにかく、当機――または分身体から離れた敵対者を討つのに、苦労するであろうことは明白だ。
可能であれば、射撃能力も獲得したいところだが。
――[先刻砲撃実行した鉄鯨]から、何か聴けないだろうか?
……まあいい。とにかく、今するべき事を――
[# [虚空深度:零へと推移]、実空への復帰が可能である! ]
「よし。それじゃあ、バーバトゥルス。
――浮上!」
鉄鯨を牽引し、虚空の●を抜ける。
何もない虚空が後方に消え去り、寒風渦巻く実空が現れる。
――□□□ ̄□ ̄Ζ_/▽\__□~!
僅かに遅れて現れた鉄鯨は、{感謝}を示すように機嫌のいい声を上げた――




