140話【意志と意志と、時計仕掛け】
――つまるところ、端的に言うならば。
【身体機能代替技術】
肉体の機能を、鉄血で精製した極小部品で代行させた、[存在の消滅]に抗う技術の行使。
謂うならばキースメルリェは、義肢ならぬ義体――
――【増設肉体】たる眷属神となったのだ。
「でも、それなら――え!? そんな……」
――だが。
そう、何もかもは――上手くいかなかった。
代替機能の見本にしたのは――既に命を失い、虚空に消えかけていた彼女の一部。
――それは、取り込めた。
故に分析/解析することも出来、無生命体の再現は容易だった。
だが、既に――彼女の生命活動は皆無といってもいい状態だった。
残滓を僅かに掬い上げ、補強し、接続し、代替し――
――それで辛うじて残った存在が、今の[ただ一筋の銀糸]だ。
銀糸に機体を与えることは出来ない。
唯でさえ脆弱な存在を、徒に傷つけるだけでしかないからだ。
直接、触れれば――
辛うじて、[会話を交わせる]程度の存在でしかない。
――それでも。
[虚空に消ゆ]ことは、回避できた。
虚空の女神に奪われた[時間/自由/希望...]は数知れど。
女神から奪った存在は――これが、初めてだ。
――喜ばしく、思うべきだろうか。
――前進と、認識すべきだろうか。
……。
まあ、いい。
こんなものでは、済まさない。
女神よ。
――待っているがいいさ。
いずれ、必ず。
お前の所へ、辿り着いてみせる。
――必ずだ。
「――メガリス、さん……」
『応答、ルゥ』
「ごめんなさい。
メガリスさんは、おねえちゃんを――たすけようと、してくれたのに……」
『――部分的否定。
彼女は自らの最期に、{満足}して逝く筈でした。
それを妨げたのは――純然たる、ボクの[エゴ]です』
「それでも! わたしは――
おねえちゃんに、いきていてほしかった。
それが、わたしの、いし!」
『――!』
死に逝く意志があるのなら、当然――
――それに抗う、意志もある。
「それが、りこてきな、わがままだって、いうのなら!
――わたしたちは、どうざい、だよ。
だから――」
『……そうですね、共犯者。
敢えてこう、言い換えましょう。
{キースメルリェを助けられて、良かった}――と』
「――! うん!
そうだよ、メガリスさん!!」
その言葉に、応ずるように――
ルゥの、小さな掌の上で。
柔らかな銀糸は、幽かな光を瞬かせた――
[# ――む。 ]
黒鳥は信号を受け、低い声を漏らす。
[# ――通告。受信を完了した。これは――
――救難信号、である。 ]




