133話【黄昏たれ銀の巨神よ】
「――いくよ!」
号令。狭まる包囲網。此方には銀、彼方には赤黒く。
鏡盾の群れが、穢焔へ向けて殺到する。
――同時に。
尾を引く穢焔は大蛇めいて、鎌首擡げて[飛翔物を迎撃]しようとする!
跳ね飛翔し喰らいつく焔蛇が[空戦鏡の包囲網]を食い破ろうと――迫る!
ああ然れど、然れど!
――そんなものが効くものかッ!!
轟! 直撃の寸前、前方への急加速による激烈な突進!
逆撃気味の寸勁染みた無駄のない瞬間加速! 迫る蛇焔を迎撃する!
ぐちゅり……何かが潰れるように響く粘つく音!
焔蛇は銀鏡群に潰されて消散!
されど! 然り、焔蛇が単独であろう筈も無し!
包囲網の幾箇所をも食い破らんと、多頭蛇龍めいて舌火を伸ばす――!
『――ルゥ!』
「まかせて――!」
空戦鏡の軍勢が陣形を取る。
凛然と理路整然と、積み重ね並べられた密集陣。
薄く広く浅い包囲網を狭め――一定の間隔で集合体を配置し並べる形か。
群体を集合させたことで包囲網の隙間こそ広くはなったが――
――然り。天網恢恢、疎にして――漏らさず!
激突、衝撃、弾ける火花。
焔蛇が伸び、分岐し、直撃し――弾かれ、爆ぜる。
爆ぜた焔蛇は果敢無く散るや埋火が如く再燃し、幾度も銀鏡に喰らい付く。
中心たる穢焔は怯みさえせず――一際大きく燃え盛ると、再び蛇焔を撒き散らす!
――無尽蔵。穢焔の燃料は底無しか?
否――断じて否!
見よ! 火焔そのモノかに見えた錆砂を!
汚れた粘つく黒い焔――その一角、燻り黒煙吐き灰燼散らす鎮火した一点。
幽かに覗く繊維質、糸状の何かが燃え残り僅かに蠢いている。
繊維は弱々しく微動すると――再び、穢焔の中に消え去った。
――やはり。
少なくとも、[汚れた粘つく黒焔]は[単独の存在]ではない。
それが[誰/何]と[誰/何]なのか。
想像通りの者なのか、全く以て的外れなモノなのか。
――それを、確かめる時だ。
[対象収束範囲:目標値到達]
[編隊機動:予定地点への誘導]
[一切不備なし]
『――行きますよ』
応ずる声、呼応した空中機動。
脚部を屈め、[鏡の台地]を踏み――[十の陽光輝く空]を、睥睨する。
燦然たる聖域は今もなお眩く照らされ――落日など遥か未来に思える。
――だが。
敢えて、言おう。
『終わりだ――穢焔。
お前に――
――【夜】を、呉れてやる――』
この作戦、最後の一要素を埋めるため。
融合機体は、再び。
空へと、飛翔した――




