132話【盤上の兵士】
『【腕に抱く造兵廠】――超過展開式・起動式!』
「[群体結合]――[対象:金属生命]!」
本体の造兵廠から捻り出した鉄血の奔流が、緑糸群体と融合機体内で混じり合い――
――自律起動兵装を、産み落とす!
『[開放]――[射出]!』
融合機体背面に設けられた大開閉機構から、次々に射出される兵装。
――然り、これこそが――!
『――【自律機動空戦鏡】!!』
融合機体の周囲に、煌めき輝くものが舞い踊る!
それは陽光を受け強烈に発光する――鏡面!
無数の三角形の鏡面が複眼めいて、幾何学的模様を構成する。
群体。
そして自律。
空戦鏡は自ら動き、飛翔する――そう、それが出来る兵器なのだ。
……いや、なに。
原理はあくまで、単純だ。
宙に浮く鏡面体――即ち、大鏡人の表皮を原材料に、対虚空飛翔翼の要領で[水準以上の空中性能]を与えたもの。
それを――緑糸が、動かしているだけのことだ。
謂わば搭乗者が乗った兵装――の、ようなものだ。
だが、複雑な操作機構などを内部に構築する必要はない。
生命体と融合し、意のままに操る濁水であれば。
そういう生命として、創り出せばいいのだ。
――幸い、この世界では機械もヒトであり、命と認められているのだ。
明白たる意志さえあれば。
そして緑糸は統一された意志をもつ群体型の生命だ。
――即ち。
生命ある鏡面体の群体。
兵士たる軍勢が、この場に出現した――そういうことになる。
――さぁ。
[旧仮称:盤上の駒持ち]――[推定:被害者神性]、[奪取させて]もらうぞ……!
「――で、コレでどう捕まえるってんだい?」
『応答、セタ。
極めて単純な――[狩り]です』
「狩りィ?
アタシにはよくわからんが――やれるのかい、メガリス?」
『肯定、間違いなく』
「――! そうかい。
わかった、メガリス。任せたよ!」
――さて。
戦闘開始と――行こうか。
『――ルゥ。
準備は、よろしいですか』
「うん。
おともだちは、うごけるよ」
『[通信要求→応答]
――黒鳥も、構いませんか?』
[# [残存燃料:零近似値]。
――行動の備えは十全か? ]
『肯定、黒き鳥よ。
行けます――今すぐにでも』
苦しげな駆動音。
{了承}の意を含み、次の音化情報を紡ぐ。
[# ――これより、結界を解除する。のである ]
――直後。
葉嵐が、止む。
舞い散る木の葉が、銀粉へと戻り。
散っていく――崩れていく――[入子格子の結界]が消えていく。
刃の結界が止み、穢焔が現れる。
天上に煌めく空戦鏡の編隊を、一瞥するかのように――
――焔は、跳ね。
鏡の地平を――赤黒く、染め始めた――




