12話【地の果ては空】
――沈む、没む、埋没する。
等加速度的に、下へ下へと真っ直ぐに堕ちていく。
目に映るものは――ただ、暗闇。
しかし、何故か。二人の姿は視えている。
落下。紛れもない自由落下だ。
着地衝撃に備えるべきだろうか。
対応可能な兵装を【造兵廠】から展開するべきか。
脚部あるいは腕部に有する緩衝機能の類いに不備は無いか。
あるいは飛行に関する何らかの機能の有無を検索すべきか。
懸念事項は多岐に渡る。
なればこそ、必要なのは情報だ。
二人の、特に"術式の行使者"と思しき、ヘルの顔色を窺う。
穏やかな表情。
目をつぶり、何かに――恐らくは"魔法の行使"――に集中しているのだろう。
だが、その所作には何の躊躇いも、一切の動揺もなく、
[非常に落ち着いている]とさえ言える状態だと認識できる。
つまり、ヘルはこの魔法を行使することに慣れていて、
おそらく、ほとんど失敗する可能性はない、と言うことになるだろうか。
では、この魔法は如何なる作用をもたらす魔法なのか?
それについては、ある程度までは推測することが出来る。
今現在、落下進行している部分は――先程の部屋の下、さらに言えば、地中だ。
当然、地中を何の障害もなく自由落下できるはずもない。
となれば考えられるのは、"物体間をすり抜ける魔法"の一種ではないだろうか。
例えば、"壁抜け"の応用。
移動する方向を前方から下方にしたとなれば、おそらくこういう形になることだろう。
だが、行先はどこになるのか?
仮にこの世界が、前世における地球型惑星と同等のものだったとした場合。
地下深くに存在するのは、とてつもない量の溶岩と、途方もなく堅い大地のプレートだけだ。
地底深くに、地上へ通ずる地下水脈でもあるのだろうか?
――いや、それではあまりに危険だ。良くて間欠泉、悪ければ海底深くに投げ出されてしまう。
地下遺跡……ダンジョンを戻って帰還するルートの方が、明らかに安全だろう。
となれば、この下には、何が――?
――と、思索していると。
フルカがこちらに向かって、目配せをしてきた。
幾つかの身振り手振りからすると、言いたいことはおそらく、こうだ。
{「もうすぐ外に出ます。大丈夫ですよ、落ち着いて下さいね」}
――外。
外に出る?
外とは、一体――?
――次の瞬間。
世界は、明転する。
肌に感じるものは、下から吹き抜ける、"風"。
耳に感じるものは、ゴウゴウと流れる、不規則な風の音。
そして、その目に映るのは――
『――空!!?』
蒼く、碧く、どこまでも真っ青な。
四方に、八方に、天地に、あらゆる方向に。
どこまでも遠く広がりゆく、果てしない蒼穹だった。
「抜けたぞ! フルカっ!!」
「はい、お嬢様! 予定通りですっ!」
ヘルの号令に応え、フルカが目元で指を動かす。
『何を――するのですか?』
「見ていれば分かるッ! 驚くぞー!」
フルカは何らかの操作を終えたようで、
彼女のモノクルには奇妙な模様が並び、ぼんやりと光を放っている。
そしてフルカは、両手を大きく広げ、大きく息を吸い込んだ。
「{招来}っ! 【潜空艦・オーチヌス】!!」
――□□□ ̄□ ̄Ζ_/▽\__□...!!
響き渡る、超長波の重低音。
眼下に浮かぶ、真っ白く、うず高い、山のような雲。
その影から現れたのは――
――宙に浮かぶ、"巨大な鉄の鯨"だった。




