122話【彼の地へと飛べ】
「――まず、第一に。
総部族長の現在位置についてだけど――」
「あ。わたし、しってるよ。
[錆砂]のいばしょなら」
あっさりとルゥが応じる。
伊達に群体で生きているわけではない、ということか。
「つい、さっき――わたしたちだったものが、ころされた。
おとで、わかる。あれは、まちがいなく――【錆砂】だ!」
――音。
そういえば、お兄様の幻術で視た時に――混沌とした狂笑のようなものが聞こえていたか。
それが[錆砂の本体たる眷属神]なるものの存在を示す兆候、なのだろうか。
――狂笑を響かせる先触れ。
或いはそれ自体は、本体ではないという可能性もあるか。
単純に、斥候。
魔女騎行を先導する松明持ちのように、本体を補佐する別個体であるかもしれない。
セタの影生物の例もある――そういう神格である可能性も、警戒しておこうか。
「――だよ。
たぶん、まだ――とおくには、いってない、はず」
「――【太陽の座】――なるほど、あの大山脈か。
道理で、何処から来るのかわからないわけだ」
――おっと、聞き覚えのない単語だ。
おそらくは地名……確認をすべきだろう――
『――失礼、お兄様。
【太陽の座】は、如何なる場所なのでしょうか?』
「ああ――鉄砂海峡を真二つに縦断する、巨大な鉄砂丘さ。
いや、正に山脈というのが相応しい、雄大極まりない難所だよ」
『山脈――ですか』
「そう。だけど、ただの山じゃあない。
驚くべきことに――この山には、山頂がない」
『――?
ならば、どのような――?』
「――平面。
おおよそ山頂と呼ぶべき部分には、突き出たものなど一つもない。
ただ抉られ、鞣され、均されたかのような――広大な平地が、広がっているのさ」
『――!?』
「銀盤が如く磨き上げられたその広野は、標高も全て均一。
一つたりとも誤差のない、完全な平面となっているらしい――それこそ、食卓のようにね」
『それは――人工物ではないのですか?』
「いや、それは分からない。
仮に出来るとすれば、それは大鏡人達の手によるものだろうけど――
――彼らの記録にも、太陽の座の成り立ちは記されていないんだ」
『大鏡人達の――?』
「ああ、彼らにとっても聖地とされていたらしい。
――とにかく、そこへ向かうとなれば――」
[# 主よ。即時の直行が可能である。
――参るか、否や? 命令を、要求する]
「まだだよ、相棒。
無策で挑んで、勝てる相手じゃあないからね」
――策。
策、か。
実のところ、一つだけ。
考えていたことがある。
おそらくは可能であるし、幾らかの勝算も無いわけではない。
――だが。
それは、ボク一人では出来ない策だ。
協力を求めるにしても、不可避の危険を強いることになる。
どう説得するべきだろうか――
「――メガリス」
『……セタ?』
不意に声をかけてきたのは、セタ。
あるいは、彼女にも何らかの策が――?
「何か――"考え"があるんじゃないのかい?」
『!?』
「あるって顔だね、それくらいは分かる」
『――はい。あります、確かに。
ですが――何故?』
「そういう顔をしてたからね。
いかにも悪巧みしてそうな顔をさ」
『――ふふ。
ええ、残念ながら、女神と同じ顔なので』
「ハ、上等じゃないか。
似合ってるよ、その[意地の悪い表情]」
周りを、見やる。
ルゥが{ああ、そういうことなのね!}と一人納得した様子だ。
ネールは怪訝な顔だ。{何が愉しいのか?}というような視線を向ける。
そしてお兄様はこちらを向き、問い、促す。
「――話してくれるかい、メガリス。
君の、作戦というのを」
『――肯定。
一つだけ、考えがあります』
――あまりにも巨大な敵対戦力を相手に、どう戦えばいいか――
『ただ、それは当機のみでは難しいでしょう――』
――なに、単純な話だ――
『皆の――力が、必要です』
――あちらが巨大生物であるならば――
――こちらも、巨大兵器で相手をすればいい――!




