表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/314

11話【自由への脱出】

『ところで、ヘレノアール嬢』


「どうした、メガリス?」


『お義姉(ねえ)さま……そう、お呼びした方が、宜しいでしょうか?』


「はうっ!?」


直後、ヘレノアールは胸を押さえる仕草をした。

どこかで、キュンという音が鳴ったような錯覚があった。


「お嬢様には刺激が強すぎるかも知れませんねー。

 ほら、お嬢様。大丈夫ですよ~」


と、フルカがヘレノアールの背中をさする。


「す、すまない……こほん。

 メガリス、そう畏まらないでくれ、もっと気安く読んでくれて構わない」


『ふむ……では、略称型の愛称型(ニックネーム)として、"ヘル"でいかがでしょう?』


「ん、んん? なにかこう、どこか不吉な響きに聞こえるのだが……?」


「とっても綺麗な響きだとおもいますよ! ヘルお嬢様!」


『お気に召しませんでしたか、ヘル?』


「……いや、悪くない。

 何というか……"邪悪なものを断つ"かのような音の響きだ。そういうものは美しい」


『では、そう呼ぶことにします。改めてよろしく、ヘル』


「あ、ああ。よろしく頼むぞ、メガリス」


握手の求めだ。

返さなければ……おっと。


『失敬、しばしお待ち下さい。

 【腕に抱く造兵工廠(アーマリー・アーム)】――解除(ディアクトベイト)


杭と射出機の形となっていた鉄血とナノマシンは、その形を失い、元の形に戻る。

元の形となった銀色の流体金属は、開いたままになっていた腕の放出機構の元へと向かう。

全ての流体が腕の中に収められると、放出機構は閉じ、傷一つない艶やかな腕がその姿を取り戻した。


「そう言う風になってるのか、それもまた美しいな」


『きっと開発者(あいつ)の趣味なのでしょう。

 さぁ、その手を』


「お前の造り手は、大した職人なのだろうな。

 さて、友誼の握手と行こう」


差し出された手をふわりと握る。

柔らかで、暖かい。それでいて、力強さもある。


ああ、良い。

この少女は、実に良い主となることだろう。


集団に属するのであれば、良い主こそ至上の宝の一つだ。


願わくば、良い関係を築きたいものだ。


「さて、それでは――先ず、この遺跡から脱出するとしよう」


「そうですね、ここも長蟲が現れうる領域である以上、長居は危険です」


ヘルが脱出を提案し、フルカがそれに賛同した。


『しかし、如何にして脱出を行うのですか?

 観測によれば、ここは相当な地下深層(ちかふかく)にあるように判断できるのですが』


「ふふ、メガリスさん。

 地下深くだからこそ、採れる選択肢、というものがあるんですよ?」


フルカがどこか自慢げな表情で笑う。

そして、ヘルがその説明を引き継ぐ。


「そういうことだ、我々は"下に脱出(・・・・)"する」


『――? 地核被覆層(マントル)突破でも行うのですか――?』


「マントル? その言葉はよく分からないが、"突破"というのは間違っていないぞ」


と、言いながら。ヘルは何やら粉のようなものを地面に撒いている。

やや広めの円形。複雑な形ではなく、魔法陣か何かのようには見えない。


「お嬢様ー、こちらの方は準備できました。

 呼び出し(・・・・)座標、ほぼ問題なしです!」


「よし、それじゃあメガリス。

 その円の内側に入るぞ」


言われるがままに、砂で描いた円の中へと入る。


何が始まるのだろうか……。

おそらく、魔法の類いだろうとは思うのだが。


地下からの脱出、と聞いて考えつくのは、まずは転移魔法(テレポート)だろう。

あるいは空間跳躍起点の設置(ワープポータル)透過輸送光線(トラクタービーム)という可能性もあるか。


しかし、となると"突破"という単語がそぐわない。

果たして何が起こるのか。ボクは少し興味を懐きながら、待った。


「よし……では、行くぞ!


 {"其は 無間の陥穽(・・・・・)――

  深く 深く 尚深く(・・・)――

  墜ち逝き果てるは 奈落の彼方(・・ ・・)――

  冥府の砂にて 縦穴(シャフト)を開け"}


 ……(サン)術式――【砂 葬 靑 山(デザート・ダウン)】!!」


――次の瞬間。


足元が、消えた。


……否!


足が、地面に、飲み込まれていく。


アリジゴクの砂罠に巻き込まれるかのように、深い沼に沈んでいくかのように。

ボクの、ヘル達の身体が、足元の地面に飲み込まれていく。


フルカと、目が合う。

その目線は、{「大丈夫」「心配しないで」}と、優しげに語りかけてくる。


……いいだろう。

信じてやるとしよう。


ボクは覚悟を決めて、身体を飲み込む不思議な感覚に身を任せた――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ