115話【そこにあるべきもの】
「とざされた、へや。それだけが、わたしのせかい。
ほかのせかいがあるとすれば、それはちっちゃな【電網恢恢】だけだった」
緑線集合体は、ぼんやりと人間のような形状を描く。
「わたしは、なにもしてなかった。
とらわれて、しろいへや。
できることなんて、ほとんどない。
――そう。
なにもしてないのに、わたしは――」
『――死んでいた、と?』
「……わからない。
【直結投影】した【電脳鏡面】、うつしだされた、しらないなにか。
それはわたしに、こういった――」
『「――{¿ 〓〓■、〓〓〓■〓■〓〓〓〓 ?}」』
「!!!!?? それ!!! そう!!!
ほんとうに、おなじなのね。わたしたち!」
『貴女は――何と、応えたのですか?』
「おともだち!
たくさんのおともだちに、かこまれて――いきてきたいって、思ったの!」
『――!』
「だって、わたしはひとり、ひとりきりだったから。
おともだち? っていうものが、あったらいいなって思ったの!」
おともだち――?
いや、彼女が言っていた――{わたしたち}が入った生物は{おともだち}になると。
ならば違和感はない。
彼女の[神的性質]は、そのまま――願いと、直結している。
――実に、悪趣味なことだ。
[友人]を願う者に、無数の[友人という自身そのもの]を与えるとは。
――女神め。
……彼女の能力は、おそらく洗脳憑依あるいは――[他者との同化]。
それを[肉体的性質]と組み合わされることで、【ヒトの集合体】となる事だ。
ヒトの集合体――それは家であり、村であり、街であり、国であり――即ち、土地の神だ。
人の住む場所とは即ち――ヒトの住まない場所でない場所だ。
[居住地⇔非居住地]には、必ず有る、概念がある。
――境界だ。
或る場所と、或る場所を――隔て、分けるもの。
其れは、無数に存在するものだ。
故にこそ彼女は、群体であり。
無数に存在するも、単一概念なのだろう。
ならば、彼女は――
『――塞神。
貴女は、境界――そして、眷属神なのですね』
それなら、もう一つ――彼女の能力についても、説明がつく。
彼女は、彼我の境界が曖昧なのだ。
曖昧にしてるのか、曖昧にされているのかは分からないが。
曖昧だからこそ、他人の精神などに入り込めるし。
分離した自身そのものを、{わたしたち}{おともだち}と呼んだりするのだろう。
「――?
そうなの? わたし――そういうものなのかな?」
『[否定]、あくまで推測でしかありません。
ボクが、貴女を、そのように見た。それだけのことです』
「ふうん……そう。でも、わるくない――かも?」
緑糸は幾つかの円や四方形を形作り――小刻みに震えてみせた。
「――うん、すてき。
それならわたし――【境界神】だ、ってことにする」
『推測、ですよ?』
「いいの。
わたしは、それが、きにいったの」
『――わかりました、【[境界]の眷属神】』
「ありがとう、[わたしじゃないひと]」
――ああ。
それも[境界]か。
同化できない相手、彼我は明白にて。
そこに引かれた境界、即ち[他者の認識]――
其れさえ得られるなら――彼女は、[危険度認識:低下処置]だろうか。
『――それで、ルゥ。
まずは――何を斃すのですか?』
「――きまってる!
[わたし本体]が[竜の女王]にいたように、ヤツの[滞在する最強の駒]は――」
『――!』
「[大鏡人・総部族長]――
――【夜帳の流星拳!】」
――かつて名前を呼ばれたものに、挑め――




