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112話【遍くは双つ】

『――ええ、はじめまして。

 ボクはメガリス、水球(かのじょ)はセタ。

 失礼ながら――あなたの、名前は?』


集合し、言葉を発し始めた緑色の人型実体(だくすい)に、ボクは語りかける。

――通じるに、越したことはない。言葉(・・)というものは。


「まって、ええと――」


[女性幼体的(おさないこどもじみた)]口調を少し止め、幾筋かの緑線(みどりいろ)がくるくると回る。

素直に受け取るならば、[思考]といったところだろうか


「――そう、わたし(・・・)は――

 【マトラルゥ・ロアケーシュ】

 (しんくうに)〓〓(うがたれし)(かつて)〓〓〓〓(のぞまれざるもの)、です」


やはり、セタと同じ様に――少し、独特な響き(・・・・・)の名前。

しかし――〓〓(このぶぶん)は、異名(・・)か何かだろうか。


――そうだ、セタも似たような事を言っていた。

確か――〓〓(みなぞこに)〓〓〓(とらわれし)(かつて)〓〓〓〓〓〓〓(きよらなりきもの)、と。


異名だとすれば、誰に――いや、女神(あのやろう)の他にあるまい。

であれば、ボクにもそのような〓〓(なまえ)があるのだろうか?


――まあいい。

聞きたいこと(・・・・・・)は、山のよう(・・・・)に、海ほど(・・・)もある。


『では――ルゥ(・・)

 幾つか、質問してもよろしいでしょうか?』


「――うん。

 いいよ、メガリス(・・・・)さん。

 おはなし(・・・・)、しよう?」


『では――まず。

 貴女は、[この浮遊島(ここ)]で、何をしていた(・・・・・・)のですか?』


「ええと――」


緑糸(ルゥ)はくるくると螺旋を描くように動く。

部分部分が、時折疑問符のような形を示す。


質問の意図が不明瞭だっただろうか。

しかし、相手の立場が分からない以上、慎重な遠回りは決して悪い選択ではないはずだ。


「――たたかって、いた?」


『!』

「――ッ!?」


戦闘――意識的な。

であるならば相手を[錆砂]なるものを、認識しているということ――!


追確認の要あり、といったところだろう。


『それは、[如何なる相手と(だれと)]――ですか?』


「――ん。

 ううん、まって」


『――はい?』


「つぎは――わたしのばん(・・・・・)、だよ。


 あなたたち(・・・・・)は、なあに(・・・)

 どうして、〓〓(めがみさま)のすがたしているの?」


『――!!』


一問一答(・・・・)―――一つの問いに、一つの答え。

一種の対話術とも言える――情報交換交渉(ことばのぎじゅつ)


場に(ルール)を押し付け、[議論の流れ(くうかん)]を操ろうとする技術――

やはりこれは――侮り難く(・・・・)油断出来ない(・・・・・・)そういう手合(・・・・・・)だ。


――さて、どう応える――?


『――ボク達(・・・)は――どうやら、女神(ヤツ)眷属神(ムスメのようなもの)らしいのですよ』


「ふうん、そうなんだ――わたし、しってる。

 おや(・・)()は、にるもの(・・・・)だって」


そういう理由(ワケ)でも無いだろうが――いや、そういう可能性も捨て去り切れないか。

どちらにせよ、問題は――次の質問、だ。


『こちらの番です。

 ルゥ、貴女は――"何"と戦っていたのですか?』


ルゥは、少しばかり言い淀む。

[ヤツの名など、口にしたくもない]――そんな感情さえも滲ませるほどに。



「――あいつ(・・・)あいつ(・・・)だよ!

 しらないの、メガリスさん! あいつ(・・・)を!!」


ルゥは急に声を荒げ、何者か(・・・)への[怒り]を放つ。

[怒りの対象者(それ)]は、ボクの知る者か、それとも――


(ようてつに)〓〓(のろわれし)(かつて)〓〓〓〓(なげかれざるもの)

 あのいじわるで、ひきょうで、ざんこくで、いまいましくのろわしいやつ!

 ブザマに、ヒト(・・)に、ころされかけた――【"無限回帰(ディアスプ)"】の【シャハズマルズ】!!!」


新たなる、人名(・・)――恐らくでは、あるが。


意地の悪い、卑しく怯える、残酷(ひどくむごい)、忌々しく――呪わしい。

如何なる人物か、そのとおりの者か、あるいはただの色眼鏡か。


だが、それにしても――[ヒトに、殺されかけた]?


……記録(きおく)に有る、[事例的近似値(にたようはなはなし)]だが。


確か、ヘルが言っていた――

[意思有る魔物(ひとがたのまもの)]を撃ち斃した、戦士(たたかうもの)――


――つまり、エデルファイト子爵(おとうさま)のことを。


……関係がある――と、するには。

些か、情報不足だろう。


今は――


『それが、貴女の敵――なのですね』


「そう! だってアイツは、まだ――

 ……いけない。もう、わたしのばんだね」


『ええ、ルゥ。

 ――情報戦(おはなし)を、続けましょうか』


――ただ、情報(それ)あるのみだ。


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