9話【戦果(リザルト)】
崩れ落ちる長蟲。
頭を喪って尚、ぐにゅり、ぐにゅりと胴体をくねらせる。
それも暫くすると止まり、その巨体は地面に縫い付けられたのだ。
『如何ですか、ヘレノアール嬢?』
ボクはとりあえずヘレノアールの方へ向き直り、その感想を聞くことにした。
「あ、ああ――」
表情を見る。あれは――なるほど。
{「私はとんでもないものを目覚めさせてしまった」}
{「恐ろしいほどの力だ……古代兵器とは、これ程のものなのか」}
{「だが、これならば。あるいは――」}
といった類の表情だ。
だが、実にいい表情だ。
こんな存在として生まれてきた以上、恐れの表情は、ぜひとも見たいものだった。
なるほど、こうなるのか。
凛とした娘が見せる怯えの表情。これはこれで、なかなか素敵なものだ。
などと考えている内に、ヘレノアールは少し意外な言葉を発していた。
「――素晴らしい」
『でしょう?』
{素晴らしい}、賞賛の言葉とは。
場合によってはボクを拒否することさえ考えられるというのに、正直言って意外な言葉だ。
「お前の力を見くびっていた、メガリス。
どうか、お前の力を我々に貸し与えて欲しい」
『それでこそ、です。
もっと、兵器を使いこなしてみせて下さい』
上々だ。少なくとも、ボクの戦闘能力への信頼は得ることが出来た。
「それと」
『?』
「お前の戦う姿が、とても美しかった」
『……はい?』
「私は、美しいものが大好きだ」
『……そうですか』
「だから、私は――
お前を、好ましいと思った」
『好かれるのは、悪い気はしませんが』
「だから、その――」
何かを言い淀んでいるようだ。
一体、何を――
その様子を、フルカが興奮した様子で見守っている。
口元を抑え、ドキドキと動悸を鳴らし、片眼鏡はずり落ちそうになっている。
この娘は、何かこう、大丈夫なのだろうか。
とにかく、これでは話が進まない。
自分から問い詰めることにしようか。
『なんでしょうか、ヘレノアール嬢?』
一瞬身体をビクっと震わせ、慌てて深呼吸を繰り返す。
すこし落ち着いたところで、ボクに目線の高さを合わせて。
恐ろしく真剣な目をして、彼女は言った。
「――私の、【妹】になってくれっ!」
[思考停止]
[再始動]
『――は?』
そう言い返すのが、ボクはやっとだった。




