第4章 恋愛ゲーム (1)
(本文)
「ど、ど、どうしたのですか直人? 大きな声を出して?」
直人の悲鳴にも似た奇声を聞き、慌てて寝室へと飛び込んできたシュトリー。顔を両手で覆い、怯え震えている直人が目に入る。
その様子を見て彼女は、どうしたのだろうか? 何かあったのではなかろうか? と不安に思いながら、直人へと近付き確認を取る。
すると直人━━
真っ青な顔して震えているのが解かり。
シュトリーはそのまま後ろから直人に抱き付き寄り添う。
自分がいるか大丈夫だと……
だから直人に不安にならなくて良いと、
でも言いたい素振りで、頬と頬を擦り合わせながら、義理の母ではなく、女として甘え、耳元で囁いてもくる━━
「……大丈夫ですよ直人。私がいますから……」
その言葉をを聞き直人。落ち着きを取り戻し、震えも止まるのだが……
代わりに直人。段々とだが、彼女に対しての欲情の方が上がって来そうにもなる。
そして彼はこのままでは不味いと思い。
自分自身の首に手を回しているシュトリーに「すいませんでした……大丈夫ですよ……」と声をかけ、何とかこの燃えるような欲情を抑える為、彼女の手を優しく払いながら立ち上がる。
仮にもシュトリーは、妻であるイレーヌの母親である。
だからいくら人魚が長寿種で、容姿がいつまでも変わらぬままの美しい状態であっても、そうそうは手を出したりはしない。
それに直人には、イレーヌの他にもこの里には妻が二人もいるのだ。
だから瀕死の状況ではあったが、イレーヌとあの男達にもう一度襲われ前に、何とかこの里まで逃げて来たかったのである。
自分自身をこの里にいる妻達に守ってもらう為に。
と……
実は直人。あの後イレーヌが、心配になり慌てて戻って着て自分を探していた事等は知らない。
だから直人、どうも女性に対する不信感だけが強くなり。二人は知らないまま、すれ違いになったみたい。
だと……
そんな理由もあり直人。欲情はしてもシュトリーの誘いには中々乗らないのだ。
だから様子を見てたシュトリー。
「ふぅ……」と溜め息だけを漏らし、残念そうな顔して又々部屋を出ていくのだ。
直人の食事の準備をするためにと……
◇◇◇◇◇
「ふぅ……おいしですね……生き返ったみたいですよ……」
「そう良かった、沢山あるから食べてね」
「はい、頂きます……」
準備が終わり、直人へと食事を運んできてシュトリー。彼が美味しそうに、食している姿を嬉しそうに見ている姿は、まさに自分の愛しい男を見つめる姿である。
だからシュトリー、好きになった男に、ここにいて貰いたいから、この里は良いとこだとアピールを始める。
「……直人。この里もいいでしょ、静かだし、近くに魚介類が豊富な海もあるから、食べ物には困らないし」
「はい、まるで自分の国に帰ったみたいですよ」
「そうなんだ……直人の生まれた国は魚介類をよく食べるんだっけ~?」
「はい魚介類なら、乾燥物から加工。生でも食べますよ」
「へ~、それだと私達人魚と変わらないんだぁ……食べ物が……」
「そうですね、変わらないですね……ここに居た時は気にもしませんでしたけど、街に居た時は、肉料理ばかりでしたので、魚が食べたくて食べたくて、しかたがなかったですよ」
「……そうか、あの街では魚は食べないんだ……」
「はい、基本肉ばかりで、魚も川魚ばかりで、海の魚が食べたくて、食べたく……特に刺身が……」
「ふ〜ん……刺身が食べたいのね……フムフム、頭に入れておくね……」
「いやいや、わざわざいいですよ、そんな事をしてくれなくても……」
「う、ぅぅん、いいの直人にしてあげたいから、いつまでもここにいてもらいたいから……それにもっともっと食べて、直人」
直人、シュトリーが用意してくれた、魚のスープを綺麗に飲み干し終え、転移前の故郷である、日本の事を走馬灯のように思い浮かべ、懐かしさにしたった。
特にこのスープの味は、日本でいう、お吸い物とほぼ一緒であり、具の方も魚と練り物とが入っていて、見た目もそのまま、お吸い物なのである。
だから直人。見ているだけでも懐かしくなり、飲めば体の傷、心の傷も癒し、涙も漏れそうにもなるし。
先程の自分自身の変わり果てた姿を思い出しては、日本に帰りたいと思ってしまうのである。
だからかシュトリーは、直人のそんな表情を和らげようとして━━
休む間もなく話かけては、何か食べたい物は無いかと直人に問うのだ。
まさに、その様子は、キッチン&ベッドのキッチンの方で、直人の胃袋を何とか掴み、自分自身を気に入ってもらおうと、アピールをしているようにも見える━━
そんなシュトリーだが、何故そこまで直人を? と思うかも知れないが。
実は帰ってきた直人。この集落の長であり、日本で言う中世の時代の、殿様なのである。
いつもこの集落と━━
ばかり言ってはいるが、実は広大な土地を所用する伯爵様なのだ。
(……ま、土地開墾していないので、荒れ放題なのだが……)
特に人魚の長は、この辺りの海の回路の護衛権や関所、今は使われていないが、本当ならば他国との貿易権迄も所有している領主様で、本来ならば長と言った呼び名では無くて伯爵様、殿様と言った方が良いぐらいの地位なのだが……
実は……直人は知らないのだが……
そんな人魚の財産を代々、長の一族が守ってきたのだが。
直人には、イレーヌ以外に嫁が既に二人もいるのだ。
だからこそシュトリーは焦っている。娘のイレーヌが一緒帰っていれば、孫もいる。それならば今迄通りで、長の一族で繋がっていくので良いのだが。
娘と孫は帰って来なかった……
それにこの調子で行けば、長の一族の者でない者が、奥方として入ってしまう。
だから時間がないし、焦ってもいるのだ。
このまま放置していれば、自分自身もここから、出て行かないといけなくなる。
シュトリーには、そんな事情があるから余計に焦るし。
自分自身も高齢なら、それでも良いかと諦めてしまうのだが。
シュトリー自体もまだまだ若いし、子を産んだと言ってもイレーヌただ一人だけ。
それに娘との年齢差も実は、15才ぐらいしか離れていないのだ。
だから、まだまだ自分自身にも自信があるし、子も沢山授かり産む事も可能だと思っている。
だからこそ、直人に尽くし気に入ってもらって、筆頭婦人にしてもらおうと、先程からアピールをしているのだ。
それに直人自身が以前から、自分の事を気にいっている事も重々承知もしている。
だからこそ、後少し後少しと、女の戦いに勝利しようと彼女は努力をしているのだ。
◇◇◇◇◇
「ふぅ……」と一息を付き、食事を終えた後の直人。その後は軽くお酒を飲みながらの二人の会話が、まだまだ続く━━
特に直人、街でのイレーヌとの夫婦生活の最後の一月ぐらいは、まだ言葉も話す事も不可な、娘のすみれとの二人だけの夜を過ごす事も多く。
イレーヌとの夫婦の会話は無いに等しく、人との会話に飢えていた。
だからシュトリとの会話が嬉しくて、楽しくて、しょうがない。
特にシュトリー、娘のイレーヌとは違い、聞き上手で笑顔で優しく、直人の話を「うん、うん、うん」と頷き、聞いてくれる。
そんな彼女の様子が嬉しいし。まるで日本に帰り、母親に甘えながら話を聞いてもらっているのと、錯覚してしまいそうになる程だ。
だから直人、癒されるし、人魚の里に帰ってきて良かったと思うのである。
それに街に住んでいたときに、この里で生産される特別な特産品を街で売ってみてはどうかと、何度もイレーヌに告げたのだが、全く持つて相手にされなかった。
でもシュトリーは違った、直人の話を真剣に聞いてくれて、尚且つ他にも提案もだしてくれるし、投資しても良いとも言ってくれる。
それに、自分なら、経営もそうだが、領主運営はもちろん。
国王、貴族、商人等のコネやルートもサポート出来る。
だから後は、直人が人魚の民の為にアイデアを出して行動だけしてくれれば一生付いて行きたいと迄言ってくれる。
「…………」
無言で考える直人。シュトリーの話を聞き思案する。
どうしょう?
彼女の体を見ると、自分の物にして、ムチャクチャにしたい思う衝動にも駆られる。
そんな自分の男としての、欲望の事を考えると、とても魅力的でもあり、良い提案でもあり、条件なのだが。
……中々踏ん切りが付かない。
やはり直人、心の何処か端くれに、まだイレーヌを思う気持ちが残っているのだと気が付くし。
直人には他にも、この里にヴィルナ、ユーリーと言った嫁が二人もいる。
だからシュトリーが、自分に言い寄っているのは悪い気がしないのだが。
妻達の事を思い出すと悪いと思う気持ちが強く、中々踏ん切りが付かない。
それに今の直人は、女性不振でもある。
いくらシュトリーにちゃんと尽くすし。死ぬ迄支えると言われても信用出来ないのである。
何せ、妻であるイレーヌに、ちゃんと相手の男に断ってくるし、手切れもしてくると言って出でいったのに、帰ってくると行きなりあんな目に合ったのだ。
だから信用してくれと言われても、何処か信用出来ないのである。
━━それに直人。そんな事ばかり考えているものだから、先程から顔が段々と不安そうになって来ている。
━━そして目も落ち着かず泳いでばかりいるのだ。
だからシュトリー。そんな表情の直人からは、今は良い返事は貰えないと悟り、取り敢えずは諦める。
(又々駄目ですか……何か良い手は……)と心の中呟き……
「直人、先に湯浴びはどうですか?」と声をかけ、男を自分の物にする次の策を思案するのであった。
◇◇◇◇◇
「さてさてどうしたものでしょうか……」
直人をイレーヌ、ヴィルナ、ユーリーと言った若い娘達から取り上げ、自分の物しようと策を練るシュトリー。今度の策は、鉄板仕様で攻めみようと思案する。
━━━━
直人が湯浴びの為、浴場に入るのを確認すると、ゆるりとだが、静かに浴場迄移動して、出来るだけ音を立てないようにしながら、扉を開け中に入る。
この緊張感とドキドキ感は、もう昔に忘れてしまった、乙女時代の恋心のようでもあり、トキメキ感も備わっている。
実はシュトリー策を練り、直人を騙していいように利用しようとしているようにも見えるかもしれないが。
直人が帰ってから、夕刻迄の時間は、ヴィルナ、ユーリーと三人で交代交代で、看病をしていたが。
夜や深夜はそうは行かない。二人か帰った後はシュトリーと直人の二人だけだ。
直人が寝汗をかけば、風を引かないようにと、布で身体中を拭き。
魘されれば、添い寝をして抱きしめて、落ち着かせた。
そんな事を何日も続ければ、直人に情が入るし、愛しくもなる。直人は知らないが、それぐらい面倒もみたし。
それどころか、直人の下の世話迄、シュトリー尽くしているのである。
だから自分を女として、嫁に貰って貰えないかと思う気持ちも、可笑しな話しではない。
だから直人には、その辺も解ってほしいと思うシュトリーなのだ。
それに又、中々直人がシュトリー自身に靡かないのも、また更に恋心が燃えてしまうらしい。
だいたいの男性ならばここまで、攻め巻くれは、大概は落ちる筈なのである。
現に王都などにきらびやかて、艶のある胸や背中の大きく空いたドレス等を着こんで行くと、男性貴族等の視点が自分自身に集まるのは、よくある事で、何度もデートに誘われたり。
王には夜を共にしないかと、幾度も誘われた事もあるほどのシュトリーなのだ。
だから彼女は自分自身の容姿にはかなり自身がある。
それなのに……直人は中々靡かない……
まだまだ、娘のイレーヌの事が気になるのか?
そう思い考え出すとイライラするし、娘であろうと負けたくない。
何故ならば、自分自身が介抱して、元気にしたのだからと……
それにもう直人━━
……嫌違う……。シュトリーは一度言葉を区切ってからこう答えた。
直人では無く長と━━
そして長は私の物だ、娘だろうと渡さない。
そう決意を新たにするシュトリー。
服と下着を脱ぎ終えると彼女は、扉を開け直人が一人入っている浴場へと足を踏み入れた。
直人に自分自身の妖艶な裸体を見せ、拝まし━━そして長を虜にしようと……
━━妖艶な未亡人が直人の背後から襲い掛かるのである。